【別紙】

 

1 当事者の概要

   被申立人Y1(以下「会社」という。)は、各種産業機械の設計、製造、販売を主たる目的として、昭和301021日に設立され、肩書地に本社を置き、大阪、福岡及び札幌に支店又は営業所を置くとともに、千葉工場、成田工場及び大阪工場を有している。平成31年4月1日現在の従業員数は、127名である。

   申立人X1(以下「組合」という。)は、金属製造業、情報通信産業に働く約6千名の労働者を組織する産業別労働組合である。

   申立人X2(以下「地本」という。)は、組合傘下の組合員約100名で組織する千葉県の地方本部である。

   申立人X3(以下「支部」という。また、組合、地本及び支部を合わせて「組合ら」ということがある。)は、組合及び地本の下部組織であり、本件申立時には少なくとも会社の従業員及び元従業員7名で組織する企業内労働組合である。

  

2 事件の概要

支部の執行委員長であるX4は、昭和60年に会社に正社員として採用された。X4は、平成22年9月に60歳で会社を定年退職した後、同月から会社の就業規則に基づいて再雇用されるとともに、65歳を過ぎても定年後再雇用時の労働条件とほぼ同じ処遇で雇用されていた。

24年5月24日、支部と会社とは、会社が組合員の雇止め等を行う場合には、組合らと事前に合意を得るよう十分協議する旨の記載がある「労使関係改善についての協定書」(以下「24年5月24日付協定書」という。)を締結した。

30年2月21日、会社は、X4を9月末で雇止めすると通告した。組合らは、この雇止めを撤回することを要求して会社と団体交渉を行った。6月28日、支部と会社とは、組合員が65歳以降も雇用を希望するときは、24年5月24日付協定書に基づき十分協議する旨の確認書(以下「30年6月28日付確認書」という。)に合意するとともに、会社はX4の9月末の雇止めを撤回し、31年3月末まで雇用を継続することとした。

31年2月5日、会社は、X4を3月末で雇止めすると通告した。その後、組合らと会社とは団体交渉を行ったが、X4の雇止めは覆らなかった。

本件は、会社がX4を雇止めしたことが、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <棄却>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

   労使関係の状況について

    組合らは、会社に対立的な支部に会社が嫌悪感を持っており、支部の中心的な役割を担って活動してきたX4を含む支部の歴代3委員長の退職を狙っていたと主張する。

    しかし、支部と会社とが、24年5月24日付協定書を締結して以降は、法的紛争は発生しておらず、法的紛争以外の面でも、大きな労使対立が生じていたと認めるに足りる事実の疎明はない。291213日には、65歳以降の雇用確保を求める支部の要求に会社が応える形で、第1回労使協議会が開催されており、会社がX4を含む支部の歴代3委員長の雇止めを通知した30年2月21日当時は、労使関係が比較的安定していた時期であったとみることができる。

    こうした当時の労使関係の状況から、直ちに会社が支部に対して歴代3委員長を排除するほどの嫌悪感を抱いていたということは困難である。

   会社がX4を雇止めにした理由について

 ア 組合らは、会社がX4を雇止めにする際に挙げた後継者が養成されたという理由は後付

けであると主張する。

   しかし、会社のY2部長は、27年5月、会社に対し、X5(当時67歳)、旧型スロッター(金属を切削加工する工作機械のこと。)担当のX4(当時64歳)及びZ3(当時62歳)が高齢であるため代わりとなる人員の育成が必要であることを報告している。そして、29年4月には、Y2部長は、工作グループ(以下「工作G」という。)に所属するX4を含む10名の従業員に対し、29年度上半期のグループ目標を示すに当たって、X4には旧型スロッターの加工指導をすることを目標として設定している。また、30年2月14日、Y2部長は、Y3取締役らとの話合いによって、4月からZ2を工作Gに配属することが内定したことを踏まえて、30年度のX4の目標として後継者に旧型スロッター及びフライス盤の技術の継承をすることを設定している。

   以上のとおり、会社は、遅くとも27年5月にはX4の年齢を踏まえて同人の代わりとなる人員の育成の必要性についての報告を受けるとともに、29年度及び30年度には同人に対して後継者の育成について意識付ける目標設定をするなどしており、後継者育成の必要性を認識していたことが認められる。そして、会社においては、X4に対する1回目の雇止め通知直前の30年2月頃、Y2部長がY3取締役らとX4の後継者について話をして、当時、入社8年目のZ2を4月から工作Gに異動させることとした。その後、X4に対する1回目の雇止め通知後の3月7日の団体交渉において、会社は、同人に対し、後継者となるべき者に対して9月末までに技能継承することを依頼しており、会社は、同人の1回目の雇止め通知をするのと同時並行的に同人の後継者の育成に取り組んでいたことが認められる。

したがって、後継者が育成されたという理由がX4の雇止めの理由として後付けされたものであるという組合らの主張は採用することができない。

 イ また、組合らは、X4によるZ2に対する育成期間が不十分であるとも主張する。

   しかし、会社は、X4に対する1回目の雇止め通知とほぼ同時期にX4の後継者としてZ2を30年4月から工作Gに配属することを決定して、X4の雇用期間が満了する予定であった9月末までの6か月間を育成期間として確保している。Z2は、工作Gへの配属が決まった当時入社8年目であること、旧型スロッターの修理を担当したことがあること、従前工作Gに所属したことがあることなどに鑑みると、会社が同人の育成にはそれほど時間を要さず、その育成期間としては6か月で十分であろうと考えたとしても無理はない。

   X4は、30年5月頃から後継者であるZ2に対し旧型スロッターの操作を指導するようになり、その後、会社は、支部と協議した上でX4の雇用終了時期を当初予定していた9月末から31年3月末まで6か月間延期したので、結局、Z2に対しては通算10か月間以上の育成期間が確保されることとなった。

   また、会社においては、X4に1回目の雇止め通知をする以前に新型のNC付きスロッターの導入を既に決定しており、そのNC付きスロッターでできる作業は、旧型スロッターと違いはなく、また旧型スロッターよりも効率の高いものであった。会社は、3010月にNC付きスロッターを導入した後、それまで旧型スロッターで加工していた精度の高い作業や時間が掛かる作業をNC付きスロッターに移行し、旧型スロッターは継手の六角加工作業の専用となったことが認められる。そして、31年1月、Y2部長は、Y3取締役に対し、Z2による継手の六角加工作業について、時間は掛かるが問題なく加工作業ができていると報告しているのであるから、会社がX4によるZ2の育成期間は3月末までで不足はないと考えたことに無理はない。

   したがって、X4の後継者の育成期間が不十分であるという組合らの主張は採用することができない。

  X4の雇止めまでの経過について

  組合らは、会社が、X4を含む支部の歴代3委員長に対して突然同時に雇止め通知を行ったことや、24年5月24日付協定書及び30年6月28日確認書の定めを反故にして組合らと事前に合意を形成しようとする協議を一切することなく、会社の考えは変わらないなどと述べる対応に終始したことが、組合らを弱体化する意図や組合らを軽視する姿勢の現れである旨主張する。

 ア まず、会社が、X4を含む支部の歴代3委員長に対して突然同時に雇止め通知を行ったとする組合らの主張について検討する。

   会社は、30年2月21日にX4を含む支部の歴代3委員長に対して同時に雇止め通知を行っているが、3名の基本的な雇止め理由は従業員の若返りの方針に沿ったものであるところ、前記⑵で判断したとおり会社はX4の後継者の育成の問題とX4に対する雇止めの通知とに同時並行的に取り組んでいたこと、X5についてもZ1を後継者として指導育成していたと認められること、X4を含む支部の歴代3委員長はいずれも会社の定年後の再雇用制度が適用される65歳までは雇用されていたこと、X6について会社は出勤率が悪いことも雇止め理由に挙げたことなどを考慮すると、3名それぞれに相応の雇止めの理由があったことが認められる。

また、通知は団体交渉の場で行われており、X5及びX4については約7か月前に通知して組合らに協議する機会を与えていること、30年度に雇止め予定の従業員は5名であって組合員以外にも雇止めの対象者がいたことに加え、前記⑴のとおり、支部と会社とは、24年5月24日付協定書を締結して以降は労使関係が比較的安定していたことをも考慮すると、会社がX4、X5及びX6の支部の歴代3委員長に対し、同時に雇止めを通知したことをもって、それが組合らを弱体化させる意図によるものであったとする組合らの主張は採用することができない。

 イ 次に、X4に対する1回目の雇止め通知以降の経過を検討する。

   30年2月21日に会社がX4及びX5を約7か月後の9月末限りで雇止めにすると通知してから、支部と会社とは、複数回にわたって団体交渉においてX4の雇止めについて協議しており、これは組合員の雇止めに当たっての事前協議を義務付ける24年5月24日付協定書に沿った対応であると認められる。その協議の過程において、支部と会社とは、それまで会社において何らの定めもなかった65歳以降の雇用について確認書を締結するとともに、X4の後継者の育成状況をも踏まえてX4の雇止めを31年3月末まで6か月延期している。そして、会社は、X4の後継者であるZ2の育成に目途が立ったことを踏まえて、2月5日にX4及びX5に対して2回目の雇止めの通知を行うとともに、その後も複数回にわたって支部との団体交渉に応じている。

   以上のとおり、会社はX4の雇止めについて支部と協議を重ね、加えて雇止め時期を6か月延期する譲歩を行っているのであるから、会社が支部と事前に合意を得ようとする協議を一切していないという組合らの主張は採用することができないし、結果的に会社がX4を雇止めとする考えを変えなかったものの、そのことをもって会社の対応が24年5月24日付協定書及び30年6月28日付確認書の定めを反故にするものであったということはできない。

   したがって、会社が30年2月21日に雇止めの通知をして以降の組合らとの協議における会社の対応が、組合らを嫌悪したり、組合らを軽視したりする姿勢の現れであると認めることはできない。

⑷ ほかの退職した従業員との比較

  組合らは、会社においては就業規則に基づく定年後の再雇用制度が適用されなくなる65歳以降も本人が希望すれば雇用され続けるのが実態であって、支部の歴代3委員長以外の者は全員が自主退職であるにもかかわらず、雇用継続を希望していた支部の歴代3委員長のみを会社が雇止めにしたことは極めて例外的で不自然なことであると主張する。

しかし、会社が定年後再雇用制度を導入した25年以降に会社を退職した者の一覧表によれば、支部の歴代3委員長よりも低い年齢で会社を退職した者が複数見受けられる。この一覧表から会社と組合らとの間で自主退職であることについて争いのない者を除外した残りの退職者の退職理由は必ずしも明確ではなく、支部の歴代3委員長の雇止め年齢がほかの従業員と比べて殊更に低いとまではいえない。

したがって、会社が歴代3委員長のみを雇止めにしたことが例外的で不自然なことであるという組合らの主張は採用することができない。

   まとめ

  前記⑵で判断したとおり、会社がX4の後継者が育成されたことを雇止めの理由として挙げたことに無理はなく、後継者の育成期間が不十分であるという組合らの主張も認めることができない。また、前記⑶で判断したとおり、支部の歴代3委員長に会社が同時に雇止めを通知したことについても、支部の歴代3委員長それぞれの雇止めに相応の理由が認められ、組合弱体化の意図に基づくものとはいえない。会社が雇止めに当たって支部との協議を一切しなかったなどという組合らの主張も認められない。さらに、前記⑷で判断したとおり、支部の歴代3委員長の雇止めが例外的で不自然なことであるという組合らの主張を認めることもできない。

以上のとおり、会社がX4を雇止めしたことには相応の理由が認められる一方、同人の雇止めが組合らを嫌悪し、弱体化するためにされたなどとする組合らの主張はいずれも認めることができない。

したがって、会社がX4を雇止めしたことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入のいずれにも当たらない。

 

5 命令書交付の経過

  申立年月日      令和元年5月27

  公益委員会議の合議 令和3年6月15

  命令書交付日    令和3年7月28