【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(以下「X1」という。)は、肩書地に事務所を置き、東京圏内の労働者が職種、業種、雇用形態に関わりなく加盟できる労働組合である。

   申立人X2(以下、X1と併せて「組合」という。)は、昭和61年に申立外Z財団法人の職員によって結成された労働組合であり、東京地本に加盟している。

⑶ 被申立人会社は、警備業、建築物環境衛生総合管理業等を事業とする株式会社である。また、会社は、国から登記簿等の公開に関する事務(乙号事務)を受託している。なお、会社は、平成31年4月1日、東京支社を設置した。

   

2 事件の概要

平成29年6月以降、組合と会社とは、乙号事務に従事する労働者の労働条件等について団体交渉を行い、当該交渉は全て会社の本社が対応していた。

31年4月11日、組合が春闘要求(以下「本件要求書」という。)に係る団体交渉を申し入れたところ、会社は、4月1日付けで新設された東京支社が組合員のいる東京法務局を管轄することとなったため、今後は、同支社が組合への対応を行うと伝えるとともに、同支社内には会議室がないため交渉は外部施設を利用し、その費用は組合と折半することを提案した。

これに対し、組合は、東京支社以外が管轄する法務局に勤務する組合員もいることから、団体交渉には本社が対応することを求めるとともに、外部施設の利用や費用の折半には応じられないことを申し入れたが、会社は、交渉には東京支社が対応する、本社会議室の使用を調整するが、今後のことは協議したいと回答した。

本件は、組合の本件要求書に対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文 <棄却命令>

  本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

 ⑴ 東京支社が対応することについて

会社において、乙号事務民間競争入札の際、入札価格を見積もり、決定しているのは各支社であるところ、平成31年4月1日に会社の東京支社が設置され、会社の登記簿に支店として登記された。そして、東京法務局の乙号事務受託については、31年4月以降、見積り及び入札、契約締結、代金の請求及び受領に関する事項等、その他契約履行に関する一切の権限が社長から東京支社長に委任され、同支社のY課長が、乙号事務民間競争入札に関し、人員、業務量を分析して管内各所の人員配置を決定し、賃金等を勘案して入札価格の見積りを作成し、同支社長の了承後に、本社に報告している。また、会社では、社員の昇給、契約社員の採否及び役職の付与については各支社長が、一定の労働協約の締結についても各支社長が、それぞれ権限行使者とされている。さらに、乙号事務労働者の賃金は、契約社員就業規則において、個別に決定し、雇用通知書に明示するとされているところ、31年4月以降、東京法務局管内の乙号事務労働者に対する雇用通知書の使用者名は、東京支社長となっている。
 そして、会社が組合加入を認識していた乙号事務労働者は全員東京法務局に所属していた中で、会社は、本件要求書への回答として組合に対し、@4月1日付けで東京支社が新設されたこと、A東京支社が東京法務局を管轄するため、今後は同支社が組合への対応を行うこととなり、その窓口はY課長が担当となったこと、B東京支社に所属する組合員については同支社が対応すること、C組織変更により、東京都を管轄とする東京支社が新設され、東京法務局は同支社の管轄となったこと、Dこれまでは、東京法務局は本社の管轄であったために、東京法務局の乙号事務労働者である組合員に関する交渉は本社が対応してきたことなどを説明している。その上で、本件要求書に対して東京支社は、適宜本社と調整した上で回答を行っている。
 このように、東京支社設置後は、東京法務局の乙号事務受託に関する一切の権限が同支社に委任され、その労働者の賃金等の労働条件の決定については同支社長が権限を有するとされた。そして、会社は、本件要求書に対し、今後の団体交渉は組合員の所属する東京支社が対応することとなったとの説明を行った上で回答しているのである。こうした会社の対応は、東京支社の権限や同支社が団体交渉を担当することに係る説明の内容からみて、それ相応な対応であるといえる。
 加えて、会社は、本件要求書以前の類似する組合の要求に対しても適宜回答しており、その内容は本件要求書に対する回答と同旨であったといえることから、東京支社が団体交渉を担当することによって本件要求に対して適切に回答できなくなったともいい難い。
 したがって、本件要求書に対し、東京支社の担当者を交渉窓口とする会社の対応が団体交渉拒否であったということはできない。

 ⑵ 会議室について

本件要求書についての会議室を巡るやり取りをみると、会社は、東京支社には会議室等がなく、団体交渉は外部施設の利用を考えており、費用については折半するよう提案している。これに対し、組合は、会社が団体交渉の場所を今までとは別の場所にするならば、会社がその費用を負担するのが当然であり、外部施設利用の際の費用の折半について応じることはできないと抗議した。これを受けて、会社は、本件要求書に関する団体交渉については従来どおり本社会議室で行えるよう調整する、今後については団体交渉で協議したいと回答している。
 このように、会社は、本件要求書に対し、当初は外部施設の利用と費用の折半を提案しているものの、組合の要求に応じて本社の会議室で応ずる姿勢をみせている。そして、会社は、今後については団体交渉で協議したいと求めているが、このことは、会社が本件要求書に係る団体交渉に応じた上で、今後の団体交渉ルールについて協議することを提案しているにすぎない。
 したがって、上記対応により会社が団体交渉開催を引き延ばしているとはいい難いことから、会社の対応が団体交渉拒否に当たるとはいえない。

 

5 命令交付の経過 

    申立年月日     令和元年5月27

   公益委員会議の合議 令和3年1019

   命令書交付日    令和3年1124