【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、業種を問わず東京都三多摩地区を中心とする企業に雇用される労働者で構成されるいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員数は約200名で、平成26年7月に会社において結成された分会がある。

⑵ 被申立人会社は、肩書地においてクリーニング業等を営み、山口工場、瑞穂工場、日高工場、松郷工場及び東大和工場の五つの工場とその下に各工場が管轄する計138の営業店舗を有している。令和元年6月30日時点の従業員数は、正社員が18名、契約社員が7名、パート社員が542名である。

 

2 事件の概要

   平成26年7月、被申立人会社に勤務する申立人組合の組合員らが、申立外X2分会(以下「分会」といい、組合と併せて単に「組合」ということもある。)を結成した。

8月16日、会社は、組合に対し、分会長X3マネージャー職に、副分会長X4(以下併せて「両名」ということがある。)が工場長職にそれぞれ就いていることから、両名の組合員資格について質問書を送付した。

   9月1日、組合は、当委員会に対し、不当労働行為救済申立て(都労委平成26年不第80号。以下「前件」という。)を行った。

9月9日、会社は、同月16日付けで、X3に対しマネージャー職を解いて受付担当を、X4に対し工場長の職を解いて工場内作業担当職を命ずる配置転換(以下「前件配置転換」という。)を発令した.

9月24日、組合は、前件配置転換の撤回を前件の申立てに追加した。

29年1月31日、当委員会は、前件について、両名に対する前件配置転換をなかったものとして取り扱うことなどを命ずる一部救済命令を発した。

会社は、これを不服として、中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し再審査を申し立てた(平成29年不再第12号)。

   中労委は、30年5月2日付「和解勧告書」(以下「本件和解勧告書」という。)により、組合、会社及び両名に対し和解を勧告し、四者はこれを受諾し、中労委が和解認定した。本件和解勧告書には、@会社は、X3を本社付きの特任マネージャーに、X4を本社付きの工場顧問に任じ、これについて業務上必要な範囲で通知すること、A両名の職務の内容、Bは、X3必要に応じ月1回程度開催する店舗会議に出席すること、Cは、X4必要に応じ月1回程度開催する工場会議に出席すること、D会社は、組合に対し、解決金を支払うことなどが記載されていた。

   6月21日、X3は本社付きの特任マネージャーに、X4は工場顧問に就任した。Y2社長は、X3特任マネージャー就任について、東大和工場管轄の店舗において口頭で紹介するとともにお知らせの文書を配布したが、工場勤務労働者には通知しなかった。また、会社は、X4の工場顧問就任について、Y2社長が瑞穂工場の朝礼において紹介を行うとともに、工場勤務労働者にお知らせの文書を配布したが、店舗勤務労働者には通知しなかった。

X3は、6月22日以降、主に東京都内及び埼玉県内に所在する店舗での受付業務に従事した。また、「接客時の対応マニュアル」(以下「接客マニュアル」)という。)の作成を指示された。

その後、会社が作成した「緊急連絡網」や「マネージャー連絡順序」には、特任マネージャーであるX3の記載がなかった。

   7月15日、従業員であるA1は、勤務時間外に店舗に立ち寄った際に、店舗のカーテンの設置を手伝った。X3がこのことをY3マネージャーに報告したところ、同月16日、会社は、A1に対して勤務外に店舗に立ち入らないよう指導する指導書を交付した。

⑹ 店舗会議は、7月17日、8月24日、31年2月26日(安部は欠席)、4月16日及び本件申立て後の令和元年5月21日に開催された。また、工場会議は、平成30年7月20日、31年3月11日及び本件申立て後の令和元年5月20日に開催された。

⑺ 平成30年5月30日の第43回団体交渉では、本件和解勧告書の「業務上必要な範囲で通知」する方法及び30年春闘が、7月11日の第44回団体交渉では、X3の工場顧問就任の通知方法が、9月5日の第45回団体交渉及び1113日の第46回団体交渉では、X3に対する接客マニュアル作成の業務命令が、31年1月25日の第48回団体交渉では、組織図に特任マネージャーと工場顧問が記載されていないことがそれぞれ議題となった。

⑻ 31年2月21日に会社が開催した「法人設立30周年記念式典」において、X3及びX4は、事前に役割を与えられていなかった。

本件は、@30年5月2日に中労委において組合及び会社が受諾した本件和解勧告書について、会社に不履行が認められるか、不履行が認められるとして、不利益取扱い及び支配介入に当たるか、A30年5月30日、7月11日、9月5日、1113日及び31年1月25日の団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか、B会社がX3の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったこと、法人設立30周年記念式典における会社のX3及びX4に対する取扱い等が不利益取扱い及び支配介入に当たるか、C30年7月16日に会社がA1に対して行った注意指導が不利益取扱い及び支配介入に当たるか、がそれぞれ争われた事案である。

 

3 主文 <一部救済>

  文書の交付

  要旨:第44回団体交渉における会社の対応が不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。

 

4 判断の要旨

⑴ 争点1

中労委の本件和解勧告書における「初審命令の主文第2項を受けて」とは、前件配置転換について救済を命じた前件命令の趣旨に沿って両名を処遇することであり、両名の処遇の内容は、原職そのものではなく本件和解勧告書に記載された内容とするものであると解するのが相当である。

ア X3の職務について

X3は、復職した30年6月21日に東大和工場管轄の各店舗への巡回業務を行い、6月22日以降1220日までの間、2日間を除いて店舗における受付業務に従事した。これらの受付業務は、本件和解協定書に定められた「店舗・工場への応援業務等」に当たるとみられることなどから、X3が就いた職務は、本件和解勧告書定められた趣旨や文言から大きく逸脱し、本件和解勧告書に反するとまではいえない。

イ X3の特任マネージャー就任通知について

本件和解勧告書には、X3が特任マネージャーに就任したことを会社が業務上必要な範囲で通知すると定められている。

会社は、X3の特任マネージャー就任について、X3が業務で関与する可能性のある東大和工場管轄店舗のスタッフに対しては、Y2社長が各店舗を直接訪問してX3の紹介を行い、併せてX3の主な職務内容について記載された「特任マネージャー着任のお知らせ」と題する書面を配布しており、その記載内容が本件和解勧告書に反しているとまではいえず、会社がX3の特任マネージャー就任を正しく周知しなかったということはできない。

また、会社はX3の特任マネージャー就任について工場勤務の従業員には通知しなかったが、X3の特任マネージャーの職務は工場勤務の従業員と深い関わりがあるとはいえないので、会社に本件和解勧告書の不履行があったとまではいうことはできない。

ウ X4の工場顧問就任通知について

本件和解勧告書により、会社はX4が工場顧問に就任したことを業務上必要な範囲で通知することとされているが、X4が業務上店舗勤務従業員と関わる可能性が高いとはいえないことからすると、会社が店舗従業員への通知をしなかったことが、直ちに、本件和解協定書を履行していないとまでいうことはできない。

エ 店舗会議について

本件和解勧告書では、X3について、「店舗会議に出席する。なお、店舗会議は、社長、店舗担当部長、特任マネージャー、サブマネージャーが出席し、必要に応じ月1回程度開催するものとし、店舗関係情報の共有を行う。」とされている。会社が、店舗会議を新設してX3を対象者とする一方で、マネージャー会議からX3を外したことは、本件和解勧告書に違反するとまではいえない。また、店舗会議の開催実績が月1回より少なくても、直ちに本件和解勧告書に違反しているとはいえないから、本件和解勧告書の不履行とはいえない。

オ 工場会議について

本件和解勧告書では、X4について、「工場会議に出席する。なお、工場会議は、社長、工場担当部長、工場顧問、次長が出席し、必要に応じ月1回程度開催するものとし、工場関係情報の共有を行う。」とされている。組合は、が出席していた工場長会議が工場会議と名称変更になったものと理解して会社と合意したなどと主張するが、和解勧告書上そのような条項はなく、会社が新たに工場会議を設置したとみるのが自然である。また、工場会議の開催実績は少ないが、本件和解勧告書の不履行とはいえない。

カ 研修等について

組合は、X3やX4に対して、出張や人事評価シートに関する勉強会の対象にせず、X4が親睦会から除外されたなどと主張するが、本件和解勧告書にX3及びX4の職務として記載されているものではないから、会社に本件和解勧告書の不履行があったとまではいうことはできず、両名に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

キ 以上のとおり、会社が本件和解勧告書を履行しなかったと認めることはできず、他に組合員であることを理由として両名を不利益に取り扱った事情も認められないから、会社の本件和解勧告書についての対応は組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入には当たらない。

⑵ 30年5月30日、7月11日、9月5日、1113日及び31年1月25日の団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか

ア 第43回団体交渉(30年5月30日)

会社は、団体交渉において、組合の要求に対し、どこまで具体的かは別にして、何らかの形で伝えると答え、その後、6月14日付「回答書」により、その時点で考えている通知の方法について組合に回答しているのであるから、このような会社の対応を不誠実とまで断ずることはできない。

会社は、組合が開示を要求した資料について、全部ではないが一定の資料を示して経営状態の概要を説明しており、組合は、それ以上の資料要求等を行っていないのであるから、会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるとまではいえず、組合に対する支配介入にも当たらない。

イ 第44回団体交渉(7月11日)

組合が、X4の工場顧問就任の通知について、瑞穂工場の工場顧問に着任したと誤解させるような内容であったと指摘したのに対し、就任の通知は会社が業務上の必要に応じて行うもので、通知に支障があっても会社の問題であるから、組合が指摘したり要求したりする事柄ではないとの態度に終始した。

しかし、就任通知は、本件和解勧告書に明記されたものであるから、会社だけの問題ではなく、労使の合意事項と解すべきである。そして、前件配置転換により従来の職を解任されたX3及びX4について和解に基づく就任通知をすることは、会社の業務上の必要だけではなく、両名の名誉回復を図り、新設の職に就く両名の業務が円滑に進むよう配慮する趣旨も含めて本件和解勧告書に記載されたものとみるのが相当である。

したがって、就任通知の内容や通知する範囲に疑問等があれば、組合が、会社に対し、それを指摘して要求等を行うことは当然であり、また、このことについて組合が団体交渉を求めたときは、会社は誠実に応じなければならないというべきである。

ところが、会社は、就任の通知は組合が要求したり指摘したりする事柄ではないとの態度に終始し、交渉に応じる姿勢を示さなかったのであるから、会社の対応は合意達成の可能性を模索する態度ということはできず、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。もっとも、会社は本件和解勧告書に基づく自らの見解を述べたにすぎないから、会社の対応は支配介入に当たるとまではいえない。

ウ 第45回団体交渉(9月5日)

会社が接客マニュアルの提出を求めると、組合が作成時間を設けてほしいと述べ、これに対し、会社が手待ち時間でやってほしい、業務命令であると述べるなどのやり取りが繰り返され、その後、X3が「車内にある。」と答え、X3が車まで取りに行った。

ところが、それより前の8月30日、X3は「接客時の対応マニュアル」等を山口工場の事務所に提出済みであり、会社側の出席者はそのことを知らなかった。また、この団体交渉の場で会社が接客マニュアルの提出を求めていたにもかかわらず、組合は提出済みであることも述べなかった。

会社は、「やると言わなかったら懲戒する。」、「組合が言うことを聞かないからだ。」、「言うこと聞く気がないんだったら何のために(団体交渉しているのか)。」などの発言についても、双方が紛糾した中での発言であることも考慮すると、直ちに不誠実な団体交渉に当たるということはできない。

組合は、A1に対する注意指導に関し、Y4弁護士が、「住居侵入罪である」、「マネージャーの適性はない」などと発言したことについて、恐怖を抱かざるを得ないとかX3に対するいじめに等しいなどとも主張するが、会社の考え方にも理由がないとまではいえず、会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるとまではいえないし、組合に対する支配介入にも当たらない。

エ 第46回団体交渉(1113日)

X3がマネージャーの意見を共有させてもらいたいなどと要望したところ、会社側は、「一応完成した接客マニュアルは早々に配布する予定。」、「巡回した中で接客マニュアルに疑問があれば吸い上げて店舗会議にかけてどうするかってことをしてブラッシュアップしていく形を考えている。」、「(マネージャーの意見は)全員に共有しなきゃいけないんだけど、それはやってみてからでもいいと思っている。」などと述べ、X3の要望に応じる旨回答しているといえる。

その後、さらに、X3が、みんなの意見を聞いてどうなったかを知りたいと述べたところ、Y4弁護士は、「知る権利はないと言っているじゃない、それは労働なんだから義務なんだよ。あんたの権利じゃないんだから、『知りたい、知りたい。』と言ったってこちらは必要ないって、そんな無駄なことで別のことやってほしいって言われれば、それは従わなければいけない。」と述べた。これらの発言は交渉における態度として適切であるとはいえないが、会社がX3の要望に応じる旨回答しているのにもかかわらず、X3が重ねて繰り返し要望したことに対し反応したものといえるので、会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるとまではいえないし、組合に対する支配介入にも当たらない。

オ 第48回団体交渉(31年1月25日)

組合は、組織図に特任マネージャー及び工場顧問の記載がない理由について、説明を拒否した会社の対応が不誠実であると主張するが、会社の説明が誠実さを欠くとまではいえない。また、会社は、「業務分掌・職務分担規程」に「工場顧問」を記載することには応じている。一方、組合は、特任マネージャー及び工場顧問の組織図への加筆について繰り返し求めているだけにすぎない。

したがって、第48回団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉であるとまではいえないし、組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。

⑶ 会社がX3の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったこと、法人設立30周年記念式典における会社のX3及びX4に対する取扱い等が不利益取扱い及び支配介入に当たるか

ア X3の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったことについて

会社ではマネージャーと特任マネージャーの職務及び権限が異なることから、連絡経路を一本化するために、特任マネージャーを「緊急連絡網」及び「マネージャーの連絡順序」に記載しなかったとの会社の主張は理解できないものではない。

このほか、X3が組合員であることを理由として同人の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったことを示す事情についての具体的な疎明はないから、X3に対する不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

イ 法人設立30周年記念式典について

30周年記念式典の具体的な状況が明らかでなく、会社が、意図的にX3及びX4に対して業務指示をせず、X3に対して他のマネージャーと異なる服装着用を指示したとまで認めるに足りる具体的な疎明はない。そして、他に会社が両名に対し組合員であることを理由として差別的に取り扱ったとの事情も認められない。

したがって、法人設立30周年記念式典における会社の対応が、X2及びX4に対する不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。

    30年7月16日に会社がA1に対して行った注意指導が不利益取扱い及び支配介入に当たるか

会社のA1に対する注意指導は、X3がA1の行為をY3マネージャーに報告したことを契機としていることが認められ、確かに、この指導書には「X3から報告があった」旨の記載があることなどから、A1に対する注意指導を組合が問題視するのも理解できなくもない。しかし、会社が、労務管理上の業務命令の有無の明確化や施設の適切な管理等の観点から、勤務日以外に店舗を訪れてカーテンの設置を行ったA1に対して注意指導をしたことに理由がないとはいえない。

したがって、会社のA1に対する注意指導は、X3に対する不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

 

 ⑸ 結論

以上のとおり、30年7月11日の第44回団体交渉における会社の対応は労働組合法第7条第2号に該当するが、その余の事実はいずれも同第7条に該当しない。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     令和元年5月15

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年7月6日

⑶ 命令書交付日    令和3年9月29