【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(以下「組合」という。)は、業種に関わりなく加盟できるいわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は650人である。

   被申立人Y1(以下「会社」という。)は、化粧品等の販売ビジネスを行う販売員向けのセミナー・イベントの企画・運営を業とする株式会社であり、ホテルの客室に会社のオフィスが所在する。Y2(以下「Y2社長」という。)が代表取締役を、Y3(以下「Y3執行役員」という。)やY4(以下「Y4執行役員」といい、Y2社長及びY3執行役員と併せて「Y2社長ら」という。)らが執行役員を務め、従業員はX2のみである。

 

2 事件の概要

会社の従業員X2(以下「X2」という。)は、会社から解雇する旨の通知がなされたことから、平成301013日、組合に加入した。同日、組合は、会社に対し、X2の組合加入通知書及び団体交渉申入書を郵送した。

団体交渉の日時についての回答期限の前日である1018日、会社のオフィス内で、Y2社長らとX2とが面談し(以下「本件面談」という。)、Y2社長らがX2に対し「基本的にそのユニオンと交渉して、あの何かを決めるっていうことは我々考えていませんから。」などと発言した。

本件は、301018日、会社オフィス内において、会社のY2社長らがX2に対して行った上記の言動が支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨

⑴ 文書の交付

  要旨:会社が平成301018日、組合の組合員に対し個別交渉をして組合を交渉から排除しようとしたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 ⑵ 履行報告

 

4 判断の要旨

   Y2社長らの言動が会社による支配介入に当たるか

1013日付けで、組合が、会社に対し、X2に対する解雇等を議題とする団体交渉を申し入れたところ、同月18日、X2の勤務時間内に、会社のオフィス内で、会社のY2社長らは、X2との間で、本件面談を実施した。本件面談は、組合の団体交渉申入れ後、その開催前に行われたものであり、その面談の内容も、以下のとおり組合が申し入れたX2に対する解雇等を議題とする団体交渉と同様の事柄に関するものであったことからすると、組合を通さず、組合員に対して個別交渉を求めたものであって、組合を交渉から排除することを企図したものといえる。

また、本件面談の際の会社側の発言内容を具体的にみると、Y3執行役員は、X2に対し、「交渉が決裂すると思うから、・・・そうなった場合には今度労働審判かそれになって、今度、それも決裂した場合は、最終的には裁判になるからね。」と、また、「裁判に至るなっていうふうに今思っているから。ここ(組合)と会うってことはそういうことだから。」、「そうなると、あの解雇通知に書いた、退職金云々ももう反故だよね。」と発言した。これらの発言は、団体交渉を行うことによって、X2が経済的な不利益等を受けることを示唆するものである。

さらに、本件面談において、Y2社長は、「彼らの落としどころっていうんですか。それは何か打合せはされているんですか。」と、Y4執行役員は、「基本的にそのユニオンと交渉して、あの何かを決めるっていうことは我々考えていませんから。」と、Y3執行役員は、「〇〇ちゃんと話をしていくけども、ユニオンとは話をするつもりはないから、俺たちは。ただ会わないといけないって脅されちゃったから、会うだけで、あの、話合いするつもりないから、端から。」と発言した。これらの発言は、全体としてみると、会社が、団体交渉等による組合との話合いによって解決するつもりはないことを明言するものである。

したがって、1018日の本件面談におけるY2社長らのX2に対する言動は、X2に組合を通じた解決を断念させることによって組合との団体交渉を回避するとともに、X2と個別交渉を行い、X2の解雇に係る組合の関与を排除しようとするものであるといわざるを得ず、会社による組合の組織及び運営に対する支配介入に当たる。

⑵ 救済利益

会社は、社内に組合員が存在しなくなったことによって会社の言動を不当労働行為であると判断する実益がなくなったと主張する。

しかし、社内に組合員が存在しなくなったとしても、団体交渉によって組合員の労働問題を解決しようとする組合の活動を会社が侵害した状態は解消されておらず、他に救済の必要性を失わせるような事情は特にうかがえないことから、救済利益は失われていない。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成3011月7日

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和2年4月7日

 ⑶ 命令書交付日    令和2年5月27