【別紙】

 

1 事件の概要

  申立人X1(以下「組合」という。)は、被申立人Y1(以下「会社」という。)に対し、平成30年7月31日付「通知書」を郵送したが、会社は、郵便物の保管期間内に受領せず、「通知書」は組合に返送された。この「通知書」には、会社を退職した従業員が組合に加入したこと、当該従業員が在籍中に受けたハラスメント行為に係る慰謝料の支払を求めることなどが記載されていた。

  組合は、8月20日付けで上記「通知書」と同内容の「通知書」を、また、9月15日付けで「団体交渉申入書」を会社に郵送し、これらは会社に到達した。

  1010日、会社は、組合に対し、代理人弁護士名で同日付「通知書」を郵送した。この「通知書」には、8月20日付「通知書」及び9月15日付「団体交渉申入書」に対する回答として、組合の法外な慰謝料請求は「ただの“脅し”であり、不当な金銭要求」であるから、一切交渉するつもりはないことなどが記載されていた。

  1012日、組合は、当委員会に対し、同月10日付けの本件不当労働行為救済申立書を提出した。

  本件は、@組合が送付した30年7月31日付「通知書」、8月20日付「通知書」及び9月15日付「団体交渉申入書」に係る団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か、A会社が組合に対し1010日付「通知書」を提出したことは、組合の組織運営に対する支配介入に当たるか否か、がそれぞれ争われた事案である。

 

2 主文の要旨

  本件申立てを却下する。

 

3 判断の要旨

  当委員会が申立人組合の資格審査を行った結果、資格審査「決定書」のとおり、申立人組合は労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合しない。

  したがって、申立人組合が労働組合法上の救済を受ける資格を有するものと認めることはできないから、本件申立てを却下する。

 

4 資格審査「決定書」の判断の要旨

 ⑴ 労働組合法第2条は、この法律で「労働組合」とは「労働者が主体となつて自主的に・・・組織する団体・・・をいう。」とし、同法第5条第2項において、労働組合の規約に規定すべき事項として、「組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること。」(第3号)、「その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること」(第5号)、「総会は、少くとも毎年1回開催すること。」(第6号)、「会計報告は、・・・少くとも毎年1回組合員に公表されること。」(第7号)などの事項が定められている。そして、労働組合法第5条第1項は、第2条及び第5条第2項の要件を満たさない労働組合は労働組合法に規定する手続に参与する資格を有せず、同法に規定する救済を受けられない旨定めている。

   これは、労働組合法による保護を受ける労働組合は、「労働者が主体となつて自主的に・・・組織する団体」であり、その運営も組合員の意思を反映した公正で民主的な団体でなければならないとする趣旨である。

   これに対し、本件における組合の規約では、「大会は、・・・議決権を有する組合員をもって構成する。」とされ(第11条)、この「議決権を有する組合員」は、「予め当ユニオン(注:すなわち当該組合)より議決権を有するものと指定された者をいう。」とされている(第15条第1項)。また、「各役員の選挙は、大会における議決権を有する組合員の直接無記名投票によって選出」されることとなっている(第16条)。

   これによれば、組合は、あらかじめ組合から「議決権を有するものと指定された者」が役員となり、これらの者のみによって業務が執行され、大会が開催され、役員が選任されることとなる。そして、実際上も、組合役員6名により組合活動がなされ、大会や役員選挙も実施されているのである。ここには、役員以外の一般の組合員の意思が反映される余地はない。

   また、会計報告についても、組合員への公表を行わない規定を設けており、実際、組合費を支払わない組合員からは、会計報告の公表を求める要求は出ていない。

   もっとも、組合規約第15条第2項には、一般の組合員も事前の申出により大会の議題及び議案を提出することができ、その場合大会の議決権を取得する旨の規定がある。しかし、これは、飽くまでもそのような申出をした組合員に限って認められる措置であり、そのような申出があった事実も確認できない上、そもそも一般の組合員には、大会の開催日や議題等は周知されていないのである。

   以上のとおり、組合においては、役員以外の一般の組合員に組合の「すべての問題に参与する権利」があるとはいえず、役員は「組合員の直接無記名投票により選挙」されておらず、会計報告は「組合員に公表」されていないのであるから、少なくとも労働組合法第5条第2項第3号、第5号及び第7号の要件を明確に欠いているといわざるを得ない。

   組合は、このような制度とした理由を、組合費無料の趣旨に鑑み、組合員の組合活動の負担を最小限にする趣旨によるものであると説明するが、このような理由をもって、労働組合法第5条第2項に定める要件を満たさなくてよいということにはならない。

   加えて、組合においては、制度として、役員以外の一般の組合員が組合の運営に参画したり、意見を述べたりする仕組みができていないのみならず、実態としても、一般の組合員は、組合費を負担しない代わりに、大会及び役員選挙に関与せず、組合の運営に自らの意思を反映させていない上、そのような状況に特に不満はなく、むしろ、組合の運営や活動にかかる負担のないことが組合員であることの動機付けとなっているとみられる。こうしたことからすると、組合においては、一般の個々の組合員が、組合を自主的に組織する主体であるということは困難である。

   したがって、組合は、「労働者が主体となつて自主的に・・・組織する」という労働組合法第2条の要件を欠いているといわざるを得ない。

 ⑵ 前述のとおり、労働組合法第5条第2項には、労働組合がその規約に規定すべき必要的記載事項が定められているが、これらは、規約に含まれていればよく、労働委員会における労働組合の資格審査において、実際に規約どおり運用されているかどうかまでは求められていないと解されている。

   また、労働委員会規則第24条には、「委員会は、労働組合が労組法の規定に適合しないと考えられるときは、公益委員会議の決定により、相当の期間を定めて、要件の補正を勧告することができる。」との規定がある。

   そうすると、労働組合法第5条第2項の労働組合の規約の必要的記載事項だけの問題であれば、当委員会が労働委員会規則第24条の規定に基づき補正を勧告し、組合規約の改正を求めることにより、組合の組合資格を認めることができる余地がないとはいえない。

   しかし、組合によれば、組合規約第20条の会計報告の規定は改正する余地はあるものの、組合費を無料とする組合の設立趣旨・理念に鑑み、「議決権を有する組合員」による組合の運営に関する部分については今後も変更できないというのであるから、組合規約を改正することは期待できない。また、組合は、当委員会の資格審査適合決定を受けた平成29年8月1日の1か月後の9月1日に規約を改正し、さらに令和元年5月31日にも改正した経緯が認められる。この2度の改正で組合規約が労働組合法に適合しないものとなったが、その2度の改正がどのような手続によってなされたかも明らかにされていない。

   加えて、本件の場合、組合は、組合費を無料とし、大会への参加等も求めず、組合員の組合運営に係る負担を金銭的にも活動的にも軽減することによって、多数の組合員を結集している実態がうかがわれ、事実上、組合を運営しているのは役員6名であって、その6名の役員を除く万単位の組合員は、制度的にも実態としても、組合を自主的に組織する主体であるとみることはできないのであるから、組合が、「労働者が主体となつて自主的に・・・組織する団体」であるということはできない。

   そうすると、仮に組合規約を改正して形式的に労働組合法第5条第2項の要件を満たしたとしても、組合は、根本的に同法第2条の要件を満たす団体とはいえないと評価せざるを得ない。

   したがって、本件においては、組合規約を改正させることにより組合の資格を認めることは相当とはいえず、組合は、労働組合法第2条及び第5条第2項の要件を欠いているといわざるを得ないから、組合が、労働組合法に規定する手続に参与し、同法による救済を受ける資格を有するものであると認めることはできない。

 

5 決定書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成301012

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和2年6月16

 ⑶ 決定書交付日    令和2年8月19