【別紙】

 

1 当事者等の概要

   申立人X1(以下「組合」という。)は、昭和35年に結成された労働組合であり、その「綱領・規約」の第4条において、組合の組織対象を「全国の法律、会計、特許、司法書士事務所及びこれらに関連する職場で働く労働者」と定めている。本件申立時の組合員数は約500名である。

   被申立人Y1(以下「法人」という。)は、Y2弁護士の父であるY3弁護士の個人事務所を前身として、平成26年3月6日付けで設立された弁護士法人である。法人の事務所には、常勤の事務員であるX2のほか、Y2弁護士の母であるY4等が非常勤の事務員として勤務していた。

   申立外Z1(以下「Z1」という。)は、28年1月29日付けで設立され、経営コンサルタント業務、各種調査・文書作成の補助業務等を行う株式会社である。Z1の設立当初は、Y2弁護士がその代表取締役に就いたが、281229日付けでY4が代わって代表取締役に就任し、同弁護士は代表取締役を辞任して代表権のない取締役となった。また、Z1の本店所在地は、設立当初、法人の事務所の所在地と同一であったが、29年1月1日付けで、Y2弁護士及びY4の住所地に移転した。

 

2 事件の概要

法人の事務員X2は、平成28年5月30日付けで法人を退職したこととされ、6月1日以降は、Z1の従業員として取り扱われ、引き続き法人の事務所において勤務した。

X2は、29年7月から、体調不良を理由として、出勤しなくなった。8月、X2は、職場でパワーハラスメントを受けたなどとして、組合に相談し、後日、組合に加入した。

組合は、1011日付文書により、法人に対し、X2の有給休暇期間中の賃金の支払や同人の復職等を議題として団体交渉を申し入れたが、法人は、何ら回答しなかった。

1020日、組合は、法人に電話で団体交渉を申し入れたが、法人の代表者であるY2弁護士は、「(健康)保険証を確認してください。」などと述べて通話を終了した。

組合は、11月6日付文書により、法人に対し、改めて団体交渉を申し入れたが、法人は、何ら回答しなかった。

本件は、組合が11月6日付けで申し入れた団体交渉に法人が応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨

⑴ 法人は組合の申し入れた団体交渉に誠実に応じること。

⑵ 文書の交付

要旨:法人が団体交渉に応じなかったことが、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。

⑶ ⑵の履行報告

4 判断の要旨

   却下を求める法人の主張について

法人は、組合は法律事務所、会計事務所及び特許事務所の従業員を組織する労働組合であり、一般の民間企業であるZ1に雇用されているX2には組合員資格がないはずであって、組合自体が申立適格を欠くから、本件申立ては却下されるべきであると主張する。

しかし、組合員の範囲は、そもそも組合が自主的に決定すべきものであるから、使用者が介入すべきものではないことに加え、X2がZ1の従業員であるとしても、同社は、Y2弁護士が自らの弁護士業務及び税理士業務に関連する事務作業等を一括して外部委託する形式とするために設立した会社であり、X2は、組合が「綱領・規約」第4条で定める「全国の法律、会計、特許、司法書士事務所及びこれらに関連する職場で働く労働者」に当たると解することができるのであるから、法人の主張は採用できない。

⑵ 組合が平成2911月6日付けで申し入れた団体交渉に法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて

ア 法人がX2の使用者に当たらないとの法人の主張について

法人は、組合が2911月6日付けで申し入れた団体交渉に応じていない。このことについて、法人は、X2の使用者はZ1であり、法人は使用者に当たらないから、団体交渉に応じなかったことには正当な理由があると主張する。

確かに、28年6月1日以降、X2の給与はZ1が支払い、健康保険及び厚生年金保険関係手続並びに中小企業退職金共済制度関係手続においても、同人は同社に雇用される者として取り扱われている。

しかし、Z1は、Y2弁護士が自らの弁護士業務及び税理士業務に関連する事務作業等を一括して外部委託する形式とするために設立した会社である。また、X2は、Z1の従業員として取り扱われるようになった以降も、引き続き法人の事務所において、同弁護士の業務指示により、税理士業務に関連する補助業務のみならず法人の弁護士の業務に関連する補助業務にも従事していた。なお、1229日以降、Z1の代表取締役はY4に代わったが、Y4は、Y2弁護士の母であり、法人においては事務員として勤務していたものであるし、また、Z1の業務はY2弁護士の弁護士業務及び税理士業務に関連する業務であるから、実質的には、法人の代表者及びZ1の取締役を兼ねるY2弁護士が引き続きZ1を運営していることが明らかである。

以上からすると、法人とZ1とは、形式的には別法人であっても、事実上一体として、X2を使用して法人の業務及びY2弁護士の税理士業務等を行い、法人の代表者及びZ1の取締役を兼ねるY2弁護士が、X2の労働条件を支配し決定していたとみるのが相当である。

したがって、法人は、X2の労働条件に係る団体交渉に応ずべき立場にあったというべきであり、同人の使用者はZ1であるから法人には団体交渉応諾義務がないなどという法人の主張は、到底採用することができないから、法人が使用者でないことを理由として団体交渉に応じなかったことに正当な理由は認められない。

イ その他の法人の主張について

法人は、本件手続において、組合が、X2の転籍は無効であると主張しつつ、X2がZ1の従業員であることを前提とする要求を行っていて、その主張が一貫せず、また、X2の利益にも合致していないことも、団体交渉に応じない正当な理由であると主張する。

また、法人は、本件手続において、組合の執行委員であるX3が、法律事務所の事務職員でありながら、事件の内容に立ち入る交渉を行おうとしており、弁護士法で禁止される非弁提携又は非弁行為である可能性が高く、法人がこの交渉に応ずること自体が弁護士法及び弁護士職務基本規程上の問題になると解釈せざるを得なかったから、団体交渉を拒絶したとも主張する。

しかし、X2及び組合が、X2と法人との雇用関係の存在を主張しつつも、X2が当面の生活を維持するために、Z1を事業主として傷病手当金の支給申請を行うこと自体は理解できるし、また、X3は、本件については、法律事務所の事務職員としてではなく、労働組合の交渉担当者としてX2の労働条件に関わる団体交渉を求めているのであるから、法人の主張は、いずれも採用することができない。

ウ 以上のとおり、法人は、X2の労働条件に係る団体交渉に応ずべき立場にあったにもかかわらず、組合が2911月6日付けで申し入れた団体交渉に応じておらず、法人が主張する団体交渉拒否の理由は、いずれも正当な理由とは認められないのであるから、法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

⑶ 救済方法について

組合は、団体交渉の応諾を求めているが、本件に係る一切の事情に鑑みると、本件の救済としては、団体交渉の応諾に加えて文書交付をも命ずるのが相当である。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成30年1月16

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和2年2月18

 ⑶ 命令書交付日    令和2年4月8日