【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、正社員、非正規雇用労働者を問わず1人から加入できる、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約300名である。

⑵ 被申立人法人は、昭和62年に設立され、肩書地に本部を置き、埼玉県狭山市にあるZ1を始めとして、同県内で複数の知的障害者(児)の支援施設を運営する社会福祉法人である。本件結審時における職員数は90名である。

 

2 事件の概要

平成281126日、被申立人Y1(以下「法人」という。)の期間契約職員であるX2は、自らの労働条件に不安を感じて、申立人X1(以下「組合」という。)に加入した。

X2は、2811月頃から土曜日及び日曜日に連続して夜勤に入ること(以下「土日連続夜勤」という。)が多くなり、これを次年度(29年4月以降)も引き続き労働条件として維持することを希望し、組合を通して法人に対して要求を行ったが、団体交渉で法人はこれに疑問を呈するとともに、現場レベルでの話合いで対応を決定していこうとする発言をした。

29年3月、X2は、4月勤務シフトで大半の土曜日及び日曜日を連続夜勤とすることを希望したが、法人はこれを認めず、勤務シフトの調整が付かなかった。その後も連続夜勤を巡ってX2及び組合と法人とは、団体交渉及び書面でのやり取りを行った。その中で法人が、X2に対し、「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」と直接通知したり、組合に対し、同人との間の雇用契約の問題について、「交渉事項からは除外するよう求めます。」と通知したりした。

そして、法人は、連続夜勤をすることは雇用契約の内容とはなっていないのであって、法人が連続夜勤にならないように勤務シフトを指定しているにもかかわらず、X2がその指定どおりに勤務せず欠勤を続けたことを理由として、7月20日、同人を普通解雇した。

本件は、@法人が、X2を29年7月20日付けで普通解雇としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か、A法人が、X2に対し、同人の勤務シフトについて、5月16日付けで、「話合いもなく契約の変更はできませんので4月1日付けの契約内容のとおりシフトを組むことといたします。」と通知したり、6月2日付けで、「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」と通知したりしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か、B法人が、組合からの団体交渉申入れに対し、6月15日付「回答書」で、X2との個別的な雇用契約の問題について交渉事項から除外するよう求めたことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <一部救済命令>

⑴ 文書交付

要旨:組合員との雇用契約について組合との問題ではないと組合員に直接通知したこと及び組合からの団体交渉申入れに対して、組合員との雇用契約の問題について交渉事項からの除外を求めたことが不当労働行為であると認定されたこと、今後繰り返さないよう留意すること。

⑵ 履行報告

 

4 判断の要旨

 法人が、X2を平成29年7月20日付けで普通解雇としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か(争点1)

ア 法人が連続夜勤を禁止した理由について

  法人がX2を解雇するに至る、同人の勤務を巡る問題は、法人が同人に対して連続夜勤を禁止する対応を執ったことに端を発するものということができ、組合は、法人のこのような対応について、組合員としての同人ないし組合を嫌悪する法人の意図の表れである旨を主張しているものといえる。

  この点について、法人は、連続夜勤を禁止した理由の説明として、3月3日の団体交渉において、連続夜勤が毎週続くのは疲労の面から非常にリスクが高い、午後4時30分から途中2時間仮眠して午前1030分まで勤務してから自宅に帰って、6時間後にはまた同じように勤務することは労働者の立場としたらおかしくないかなどと述べて、連続夜勤は疲労の面で問題があることを指摘している。また、法人は、4月19日の団体交渉においても、28年7月に発生した相模原障害者施設殺傷事件を受けて、職員のストレスに配慮する必要が生じた、施設で何か事故があったときに事業者側は安全配慮義務違反に問われる、施設運営を改善していく上で、まずはZ1の連続夜勤をやめてX2に1日空けて勤務してほしいという結論になった、夜勤回数を減らすわけではなく給与が下がることはない、日を空けて夜勤すれば済む話である、土曜日及び月曜日で夜勤してもらえないかなどと述べ、X2の事情にも配慮しながら説明している。

  連続夜勤が、それを行う従業員に疲労の面で問題を生じさせるものであり、従業員、施設入所者双方との関係での安全な事業運営の観点から適切な働き方とはいい難いと考えるのは自然なことであるというべきであり、法人が連続夜勤を禁止したこと自体には相応の理由があったと認められるのであって、X2を殊更に不利益に取り扱う意図で行われたとはいえない。

  なお、法人は、27年4月勤務シフトを作成するに当たって、X2が土日連続夜勤を希望したとき、法人は同人からその理由を聴取した上で、土曜日及び月曜日を夜勤とする勤務シフトを中心に作成し、そのとおりに27年度を通じて勤務させた経緯がある。さらに、法人は、X2に対し、28年度は土日連続夜勤を事実上させていた経緯はあるにせよ、遅くとも29年1月末までにはY2を通して3月までに土日連続夜勤の希望を改めるように伝えたことが認められる。このように、法人は、X2の組合加入の事実を認識するより前の時期から、連続夜勤に対して消極的な意向を同人に示していたものといえる。

イ 法人の勤務シフト指定に対するX2の対応について

  X2は、5月については、自らが夜勤を希望する毎週土曜日のみ法人を訪れ来客用名簿に自らの名前等を記入することで、土曜日に勤務する意思があることを示す一方、法人が夜勤日として指定した金曜日については、年次有給休暇を申請するわけでもなく勤務しなかった。また、X2は、6月についても、自らが勤務を希望する土曜日のみ法人を訪れ来客用名簿に自らの名前等を記載することで、土曜日に勤務する意思があることを示す一方、法人の指定する毎週金曜日及び日曜日を夜勤とし、毎週火曜日及び木曜日をP遅番勤務とする勤務シフトについては、年次有給休暇を申請することなく全て勤務しなかった。

  また、X2の希望と法人のシフト指定が対立し、法人がこれについて話合いのため来所するよう求めても、同人は一切応じなかった。

  こうした経緯に照らせば、法人が、X2の上記対応を、法人の禁止している連続夜勤を行うことに固執して、それが実現されない以上、法人の勤務シフト指定に応じようとしない姿勢を示すものとみた上で、このような態度が続く以上は同人を解雇するのもやむを得ないと考えることも、必ずしも不自然、不相当とはいえない。

ウ 29年度雇用契約における連続夜勤の取扱いについて

 () 3月3日の第1回団体交渉において、法人は、連続夜勤が毎週続くのは疲労の面から非常にリスクが高い、X2だけが連続夜勤をやっている、同人が2年なり3年なりそのようなことをしていて果たしてよいのか、同人が連続夜勤を行っていたのは28年度だけであり、27年度の夜勤日は土曜日及び月曜日だったなどと述べて、同人が連続夜勤を継続することに疑問を呈していた。

一方で、法人は、第1回団体交渉では連続夜勤を今後は一切禁止するとまでは言わず、むしろY2は、いろいろな人が異動したり、辞めたりすることを踏まえると曜日を固定せず「運用」で話し合って勤務シフトを示す方がよい、X2が従前連続夜勤をしていたから今後もやった方がよいという話は後で話すことでよいですかと述べるなど、連続夜勤の取扱いを現場レベルで今後調整していこうとする発言をしている。また、Y2は、X2にどうしても譲れない希望があれば、それを聞かせてもらって、可能な限り支援していかなければと思うとも述べるなど、連続夜勤が認められる可能性を残す回答もしている。これらの回答を基に、組合及びX2が、第1回団体交渉の時点では、法人は連続夜勤を一切禁止するものではなく、同人の置かれた状況に配慮しながら現場レベルでの話合いで柔軟に勤務シフトを決めていこうとしていると受け止めたとしても無理はない。

 () それにもかかわらず、3月30日、法人は、X2に対し、週2回の夜勤について「連続不可」と明記した雇用契約書を渡している。

組合は、このような法人の態度の変化は、3月18日の評議員の発言に端を発しており、法人が組合を嫌悪していたことを示すものであると主張する。

確かに、法人の対応は、第1回団体交渉における連続夜勤を現場レベルで話し合って決めていこうとするY2の発言からすると硬化した対応ではある。

しかし、3月3日の第1回団体交渉におけるY2の発言は、現場レベルでの話合いに基づく運用として連続夜勤が認められる可能性を示したものであり、同日の団体交渉において、X2の連続夜勤を許容する旨の合意がX2ないし組合と法人との間で成立したものとは認め難い。また、Y2の当該発言により、法人が、具体的な事情次第で連続夜勤を認める運用をすることについて一定の配慮を示す意向を示したものとみる余地はあるといえるが、その場合にも、X2がこれまで行ってきたのと同様の形で連続夜勤を引き続き行うことを認めるのかも含め、いかなる場合にどの程度の連続夜勤を認める配慮をするのかについての具体的な内容が明らかにされ、労使間で了解されたものとはいい難い。

そのような状況で、3月18日にX2が提出した4月勤務シフトは、4月中に5回あった土日のうち4回を連続夜勤とするもの(残り1回の土日の日曜日については、4月の所定労働時間を超えることから同人が「私用のため」休みとした16日(日)であり、同日は公休日となったことが別紙から認められる。)であったのであり、それに対してY2が、X2に土日連続夜勤とならないようにこの希望を変更することを求めたが、同人は応じなかった。そこで、Y2は、X2に対し、連続夜勤とならないように土曜日だけ夜勤をすることとして日曜日に年次有給休暇を取得することを提案し、同人はこれに同意して日曜日に年次有給休暇を申請したことが認められる。

Y2の上記対応は、土日連続夜勤の取扱いを一時的に先送りするために現場レベルでやむを得ず行った対応であることがうかがえる。しかし、上記対応の下で仮に日曜日の年次有給休暇申請をX2が取り消した場合、同人は土日連続夜勤することになってしまうことを考えれば、法人がそうした事態を危惧し、連続夜勤を雇用契約書において明確に禁止しておくことが必要であると判断したとしても無理からぬ事情があったといえる。

  その後、法人は、4月19日の第2回団体交渉において、連続夜勤禁止の方針は絶対変えないと述べるとともに、その理由についても一応の説明はしていると認められる。

  以上によれば、法人が29年度雇用契約書にX2の夜勤について連続不可と記載したことをもって組合との交渉経緯を法人が一方的に無視したとまでいうことはできず、法人が組合を嫌悪してこのような対応を行ったとはいえない。

エ 29年4月以降のX2の勤務に関する法人の勤務シフト指定について

() 組合は、法人がX2に対して4月勤務シフトを1日も指定しなかったのは、同人を職場から排除するためであったと主張する。

しかし、法人が、3月31日に4月勤務シフトを作成したとき、3月30日に法人が「連続不可」と明記した雇用契約書をX2が受け入れたのか不透明な状態であったのであるが、前記ウ()で判断したとおり、法人が、連続夜勤を禁止すること自体は、無理からぬ事情があったと認められる。そうであるとすれば、X2と法人との間の雇用契約のうち、同人の勤務シフトについて、いかにあるべきかが確定するまでは、法人が、同人に4月勤務シフトとして、同人の希望どおりに土曜日の夜勤を指定することをせずに代わりの職員に土曜日の夜勤を指定した勤務シフトを作成したことは、法人における夜勤が一人体制であること、4月の到来が目前になっていたことを考慮するとやむを得ない対応であったといえる。

なお、X2は、4月の土曜日以外の火曜日、木曜日及び日曜日には、3月30日に年次有給休暇申請しており、これについて法人は、4月26日に承認するまで、その取扱いを一旦保留していることがうかがえるが、上記不透明な状態を踏まえれば、相応の対応であったといえる。

  () また、組合は、法人がX2に対して5月以降の勤務シフトで金曜日に夜勤を指定したことによって欠勤に追い込み、職場から排除したとも主張する。

 確かに、法人は、5月1日から7月20日まで、第1回及び第2回団体交渉などにおいてX2が祖母の介護のために勤務できないとしていた平日である金曜日に夜勤を指定している。

 しかし、X2は、遅くとも27年度から火曜日及び木曜日はP遅番勤務を行っており、その後も毎週土曜日の夜勤のみを希望した29年6月及び7月を除けば、火曜日及び木曜日にはP遅番勤務を継続的に行う意向があったと認められる。そして、27年度と同様に土曜日及び月曜日を夜勤とすることは、月曜日の夜勤終了(翌日火曜日午前1030分)から翌日火曜日のP遅番勤務開始(午後3時30分)までの勤務間インターバルが5時間となり、土日連続夜勤の場合の勤務間インターバル6時間よりも短くなる。もともと法人は、土日連続夜勤を禁止した理由として、勤務時間の長さ及び勤務間インターバルの短さを挙げていたのだから、土曜日及び月曜日を夜勤とすることを法人自身が第2回団体交渉で一旦は提案したことを考慮しても、X2の5月以降の勤務シフトではそのように指定しなかったことが不自然とまではいえない。これらを考え併せると法人が連続夜勤とならないようにX2に夜勤を毎週2回指定するために、金曜日及び日曜日を夜勤として指定したことにも、主に安全配慮の観点から相応の事情があったと考えられる。

 一方で、X2が挙げる祖母の介護の事情については、本件審査手続において具体的に疎明する証拠はない。

 そうすると、法人が、X2に対し、5月以降の勤務シフトで、金曜日に夜勤を指定したことは、それがX2の希望に沿わないものであることを考慮しても、同人を職場から排除する目的でなされたとはいえない。

オ 法人が団体交渉拒否及び支配介入を行ったとする組合の主張について

組合は、法人が、連続夜勤の取扱いないし金曜日の夜勤指定について協議を求める組合に対して団体交渉を拒否したり、X2に対して個別交渉を求めたりする支配介入行為を行っているから、同人を普通解雇した真の理由は組合嫌悪であると主張する。

 確かに、法人は、組合に対し、4月19日の第2回団体交渉において、連続夜勤禁止の方針は絶対変えないと述べるとともに、その理由についても一応の説明はしていると認められる。

しかし、その後、法人は、X2に対し、5月及び6月の勤務シフトで毎週金曜日を含む夜勤日を指定し、これに対してX2及び組合が毎週金曜日は祖母の介護のため勤務できないとして合意ができない状態になった。それにもかかわらず、法人は、X2に対し、6月2日付けの文書で「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」と通知して、契約交渉から組合の関与を排除する意思を示した。また、法人が、組合に対し、6月15日付「回答書」で法人とX2との契約の問題については、「およそ団体交渉の交渉事項としては、前提を欠くものですので、交渉事項の対象とはいたしかねますので、交渉事項からは除外するよう求めます。」と通知したことは、組合と話し合って問題を解決することを忌避したものとみざるを得ない。

カ 結論

以上を総合すれば、法人がX2を7月20日付けで普通解雇とする過程において、法人には同人の勤務シフトの問題について、組合との話合いによって解決していくことを忌避したといえる対応があったといわざるを得ないが、そのことを考慮しても、法人が、連続夜勤を禁止し、その方針に基づいて同人に対して金曜日を含む勤務シフトを指定したこと自体は、相当な対応であったというべきである。本件解雇は、このような状況の下でのX2の対応を、連続夜勤に固執して法人が指定した勤務シフトに従わない姿勢を示すものとみて、そのことを理由としてなされたものといわざるを得ない。

したがって、法人が、X2を7月20日付けで普通解雇としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たらない。

 法人が、X2に対し、同人の勤務シフトについて、5月16日付けで、「話合いもなく契約の変更はできませんので4月1日付けの契約内容のとおりシフトを組むことといたします。」と通知したり、6月2日付けで、「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」と通知したりしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)

ア 5月16日付けの文書

法人が、5月16日付けの文書を発出した当時は、法人が連続夜勤を禁止するとともに、X2に対して毎週金曜日を含む夜勤日を5月勤務シフトで指定し、これに対して同人及び組合が毎週金曜日は祖母の介護のため勤務できないとして、金曜日を夜勤日とすることについて合意ができない状態であった。

こうした中で、法人は、5月16日付けの文書でX2に来所するように依頼するとともに、来所しない場合は4月1日付けの雇用契約内容のとおりシフトを組む旨を通知している。

組合は、5月16日付けの文書が、団体交渉事項について、組合の頭越しにX2本人の承諾を得ようとしたものであると主張する。

確かに、組合はX2の勤務シフトの問題について団体交渉を求めていたが、5月16日付けの文書は、同月14日に同人が直接法人に対し、6月勤務シフトとして土曜日夜勤のみを希望するとともに同月以降の雇用契約の内容を毎週土曜日の夜勤1回に変更するよう依頼したことを受けて発出されたものである。5月14日付けのX2の文書は、毎週2回の夜勤に加えて火曜日及び木曜日をP遅番勤務とする4月1日付けの雇用契約の内容を大きく変更するように依頼するものであったと認められる。これに対して法人が「話合いもなく契約の変更はできません」としたことに不自然さはないし、話合いができない場合には、「4月1日付けの契約内容のとおりシフトを組む」としたことも無理からぬ対応である。また、5月14日付けのX2の文書は、法人に対し、同人自身が法人に直接発出したのであり、この文書自体には組合に連絡するよう求める文言はなかったのであり、これに回答する法人の5月16日付けの文書には殊更に組合の関与を排除する文言はない。

そうすると、法人が、X2に対し、5月16日付けの文書で同人の勤務シフトについて直接通知したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

イ 6月2日付けの文書

6月2日付けの文書は、X2が、法人に対し、6月1日付けで団体交渉に応ずるよう依頼するとともに、法人との話合いには組合の立会いがあれば応ずるとの意向を文書で通知したことを受けて発出されたものである。

そうすると、法人は、組合が団体交渉を求めており、X2自身もそのような意向を示している勤務シフトの問題等について、「組合との問題ではありません。」と応じたものといえる。組合が交渉を求めたX2の勤務シフト等が同人の労働条件に関する事項として義務的団交事項に当たることは明らかであり、法人の対応は、組合が団体交渉を求めている義務的団交事項について、組合の関与の下に解決を図るべき問題であることを否定し、同人と直接交渉することで合意を図ろうとしたものとみざるを得ないから、組合を無視ないし軽視することで組合の影響力の排除を企図した支配介入に当たる。

ウ 結論

以上のとおり、5月16日付けの文書は、組合運営に対する支配介入には当たらないが、6月2日付けの文書は、組合運営に対する支配介入に当たる。

 法人が、組合からの団体交渉申入れに対し、6月15日付「回答書」で、X2との個別的な雇用契約の問題について交渉事項から除外するよう求めたことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点3)

ア 6月15日付「回答書」において、法人は、X2及び組合に対し、同人との個別的な雇用契約の問題について、「およそ団体交渉の交渉事項としては、前提を欠くものですので、交渉事項の対象とはいたしかねますので、交渉事項からは除外するよう求めます。」と回答している。

しかし、法人と個人との間の個別的な雇用契約の問題であっても、組合員の労働条件その他の待遇に関する事項は義務的団交事項に当たるのであるから、X2の雇用契約の問題は、義務的団交事項に当たるとみるほかなく、組合からこれについての団体交渉を申し入れられた以上、法人は正当な理由のない限り応ずる義務があるというべきである。

イ この点について、法人は、6月15日付「回答書」において、X2の契約問題について除外を「求めます。」と通知したにすぎず、同文書で団体交渉には応ずるとしていることから団体交渉を拒否したわけではないと主張する。

しかし、6月15日付「回答書」は、法人とX2との間の雇用契約の問題について、およそ団体交渉の対象としては前提を欠き、交渉事項の対象とはいたしかねるという、一般的かつ強い表現で団体交渉の対象となることを否定し、交渉事項からの除外を求めるものであって、その文言からすれば、これを単なる希望の表明や提案とみることはできず、同人との雇用契約の問題を団体交渉から除外する法人の確たる意向を示したものといわざるを得ない。

6月15日付「回答書」が発せられた経緯を見ると、同月1日にX2が雇用契約の問題について組合と団体交渉を行うことなどを求めたのに対し、法人は、同月2日付けで「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」などと回答しており、また、同月5日の組合の団体交渉申入れ及び同月9日に同人自身が自らの雇用契約の問題は団体交渉事項であり、連絡は組合にするよう求めたことを受けて、法人は、6月15日付「回答書」を出している。法人は、6月15日付「回答書」だけでなく、これに先立つ同月2日付けの回答においても、X2との雇用契約の問題を団体交渉の対象とすることに対する否定的な見解を示しているものといえる。

また、法人は、6月15日付「回答書」と同日に、X2に対し、雇用契約に基づいた勤務シフトに従わず欠勤を続けているとして7月20日付けで普通解雇する旨の解雇予告を行っており、これによって、同人の雇用契約の問題は、同人の勤務シフトを巡る問題から解雇問題へと発展したものといえる。6月15日付「回答書」に係る法人の対応は、組合が従前から団体交渉を求めていたX2との雇用契約に関する問題が解雇予告という重大な事態に発展したことにより、問題の迅速かつ円滑な解決のために団体交渉を行う必要性が特に大きくなったといえる時期における団体交渉の可能性を著しく損なうものであったといわざるを得ない。

以上のことからすれば、6月15日付「回答書」は、法人とX2との間の雇用契約の問題を団体交渉から除外することによる、この問題についての団体交渉の拒否に当たるというべきである。

ウ そして、法人とX2との間の雇用契約の問題を団体交渉から除外することについての正当な理由の存在をうかがわせる事情は認められない。

エ したがって、法人が、X2との雇用契約の問題について団体交渉事項からの除外を求めたことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      平成29年9月29

⑵ 公益委員会議の合議 令和元年1217

⑶ 命令書交付日    令和2年2月20