【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、会社の従業員が組織する労働組合であり、乗務員、指導職及び会社本社の事務職員が加入している。本件申立時の組合員数は約70名である。

⑵ 被申立人会社は、成田空港又は羽田空港と各地の停留所間において乗客を輸送するリムジンバス等の運行を業とする株式会社である。本件申立時の従業員数は約1,000名である。

 

2 事件の概要

⑴ 申立人組合と被申立人会社とは、平成261212日付けで、組合員の業務負担を軽減することなどを内容とする「確認書」を締結した。また、組合と会社とは、輸送人員明細表(リムジンバスの運転手が乗降客数と到着時刻を記録する書類)の取扱い、事務職員が休日出勤する場合の取扱いなどについて、271127日付「確認書」及び同月30日付「合意メモ」により合意した。

  271216日、28年9月1日、10月1日及び29年4月1日、会社は、一部路線について、輸送人員明細表における乗降客数の記載をやめたり、同明細表の作成自体を廃止したりしたが、それ以外の路線において、従来どおり輸送人員明細表の記載を継続している。

  29年9月27日、組合は、当委員会に対し、輸送人員明細表に係る合意を履行することなどを求めて本件不当労働行為救済申立てを行った。

  組合と会社とは、輸送人員明細表の廃止等について、30年2月23日、4月23日、7月4日及び同月24日に団体交渉を行った。

  1017日、組合は、組合員の労働条件について団体交渉の申入れがあったときは誠実に応ずることを求めて本件の追加申立てを行った。

1213日、組合は、事務職員の休日出勤に係る合意を履行することなどを求めて本件の追加申立てを行った。

⑵ 本件は、@輸送人員明細表に関する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるか、A輸送人員明細表の廃止をめぐる団体交渉における会社の交渉態度は、不誠実な団体交渉に当たるか、B事務職員の休日出勤の取扱いなどに関する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるかが争われた事案である。

 

3 主文の要旨(一部救済)

⑴ 文書の交付

  要旨:会社が、事務職員の休日出勤の取扱いなどに関する妥結内容を履行していなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 ⑵ 前項の履行報告

 ⑶ その余の申立ての棄却

 

 

4 判断の要旨

⑴ 輸送人員明細表に関する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるか

ア 輸送人員明細表の取扱いについての合意内容

27年3月10日の団体交渉、4月7日の労使会議及び4月9日の団体交渉で会社が一貫して輸送人員明細表の必要性を説き、作成の継続を求めているといった経緯などからすると、本件における輸送人員明細表に係る合意は、廃止可能なものについては準備が整い次第実施することとし、課題として残っているものについても速やかに解決に向け継続して協議することであると解される。

イ 合意の不履行があったか

会社は、271127日付「確認書」の締結後、複数の路線において、輸送人員明細表自体を廃止したり、乗降客数の記載をやめたりしている。また、輸送人員明細表廃止に向けて乗降客カウントセンサなどの導入を検討したり、廃止改善の目標として伝えていた平成27年度末に、引き続き輸送人員明細表を作成する必要があると考えていることを組合に伝えるなど協議を行ったりしている。

このように、会社は、輸送人員明細表について、廃止が可能なものは順次廃止しており、また、廃止できないものについても組合と協議を行っていることから、合意に従った対応をしていたということができる。

組合は、現在作成を継続している輸送人員明細表についても作成を継続する必要性はなく、廃止しないことは合意の不履行であると主張する。しかし、輸送人員明細表の必要性について労使の見解が対立している中で、会社は、組合との協議を継続し、輸送人員明細表により路線ごとに乗降客数を集計してダイヤ設定に反映している等、相応の説明をしているのであるから、輸送人員明細表の作成が不必要であり、廃止しないことが不履行に当たるとまではいえない。また、このような状況を考えると、会社が、組合との合意を軽視して殊更に廃止を遅らせていたとまでは認められない。

以上のとおり、会社は、輸送人員明細表について、廃止が可能なものについては順次廃止し、廃止できないものについては組合と協議を行うなど、組合との合意に沿った対応をしており、会社の対応は、組合活動に対する支配介入には当たらない。

⑵ 輸送人員明細表の廃止をめぐる団体交渉における会社の交渉態度は、不誠実な団体交渉に当たるか

ア 輸送人員明細表の必要性、履行の進捗状況の説明

会社は、団体交渉において、輸送人員明細表の必要性について、乗車客数を確認するためには乗車人員確認表とは別に輸送人員明細表を記載する必要があること、路線ごとに集計してダイヤ設定に反映していること、共同運行路線では売上配分にも活用していることなどを説明するなど、組合の質問に応じて、輸送人員明細表の必要性について相応の説明をしており、このような会社の対応が不誠実とまではいえない。

会社は、乗降客カウントセンサについて、組合から質問されるまで、保留となった事実を説明していないなど、組合から質問されなければ説明をしないような姿勢がうかがわれるものの、乗降客カウントセンサやICTシステムについて、会社は、おおまかな検討状況や組合に質問されたことなどについては相応の説明をしており、会社の対応が不誠実であるとまではいえない。

イ 到着時刻のみを記載する輸送人員明細表の必要性の説明

 組合が、到着時刻のみを記載する輸送人員明細表について質問するまでは、到着時刻の記載については積極的には問題とされていなかった以上、仮に会社が、それまで説明をしていなかったとしても、そのような会社の対応が不誠実であるとまではいえず、到着時刻についても共同運行会社から求められている等、到着時刻のみを記載する輸送人員明細表の必要性について一定の説明をしていることからしても、会社の対応が不誠実だったということはできない。

ウ 交渉の引き延ばし

会社は、乗降客カウントセンサについては、当初からある程度時間が掛かることを説明しており、その後も、同センサの実験をしたこと、乗降客数に誤差があることなどを説明していた。このような経緯を踏まえれば、会社は乗降客カウントセンサ等について、検討に時間が掛かっていることを説明し続けているものの、これは、輸送人員明細表の代替手段として同センサ等を慎重に検討していたためであると認められ、交渉を長引かせる趣旨であったとは認められない。

エ 事情を把握している担当者の不参加

30年7月4日付けの団体交渉申入書における協議事項の記載内容(「代休の賃金未払い清算(ママ)について」、「その他関連事項」)や団体交渉の議題は組合からの団体交渉申入れにより明確化するのが通常であることも考えると、本件審査が係属中であったとしても、7月24日の団体交渉の議題に輸送人員明細表の廃止に関する事項が含まれているとまで会社が考えなかったのも無理からぬところがある。さらに、会社は、団体交渉議題として輸送人員明細表が明記されている時には、団体交渉に運行部の担当者を参加させていることからすれば、会社が、団体交渉に運行部の担当者を殊更出席させず、輸送人員明細表に関する回答を避けようとしたものとは認められない。

オ 和解提案の撤回

和解に関しての条件を調整する際には、当事者は、和解で解決することにより得られるメリット・デメリットを考慮しながら、その成立に向けて提案をしたり、相手方の提案を受けて一定の譲歩をしたりすることはままあることであるから、和解が不調となった後に和解交渉時の提案を撤回した会社の対応が、不誠実な団体交渉態度であるということはできず、組合のかかる主張は採用できない。

カ 以上のことからすれば、輸送人員明細表の廃止に係る団体交渉での会社の対応が不誠実であったとまでは認められない。

⑶ 事務職員の休日出勤の取扱いなどに関する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるか

ア 271130日付「合意メモ」には「事務系社員が休日出勤をする場合には、必ず事前に振替休日を設定して実施し」との文言がある。しかし、会社は、組合員X2が30年9月29日、10月1日及び同月8日に行った休日出勤に係る振替休日を事前に設定していないことが認められる。

従来、会社が休日の振替及び代休の取得を個々の事務職員に任せ、厳格に管理していなかったことを踏まえ、「必ず事前に振替休日を設定して実施し」という強い文言で労使合意をした経緯を考えれば、会社は、事務職員が休日振替取得日を「未定」とする届出をしたとしても、職員を指導したり業務を調整するなどして速やかに事前に振替休日を設定させた上で、実際に取得できるよう努力することが求められていたものというべきである。

しかし、会社は、休日出勤報告書を作成させるなど一定の努力をしたことは認められるものの、休日出勤報告書の振替休日取得日を「未定」と記載したX2に対し、振替休日を事前に設定し、取得させる努力をした事実は認められず、会社が、271127日付「確認書」及び同月30日付「合意メモ」を踏まえた対応をしたということはできない。

会社は、X2が9月29日、10月1日及び同月8日に行った各休日出勤につき、5か月以上経過した31年4月1日時点でも代休を取得させておらず、この間、会社が、代休を取得させられない理由を説明した事実も認められないことから、本件「合意メモ」の「3か月以内に必ず代休を取得させることとする。」、「3か月以内に取得できない場合、管理者はその理由について責任を持って説明する。」という合意についても遵守していたとはいえない。

イ 本件「合意メモ」には「4週間以内若しくは同一給与計算期間内に振替休日が取れない場合は休日出勤とし割増賃金を支給する。」との文言がある。

 しかし、会社は、数か月分ないし1年分の割増賃金をまとめて精算するといった方法を採っており、上記の合意に沿った時期に支払っていたとは認められないため、上記合意に違反する運用を行っていたといえる。

ウ 以上のことからすれば、会社は、事務職員の休日出勤の取扱いなどについて合意した事項を遵守したとはいえず、また合意を遵守する努力も怠っていたといえる。そして、休日の振替休日等が厳格に管理されていなかったことを踏まえ、「必ず事前に振替休日を設定して実施し」、「3か月以内に必ず代休を取得させる」、「責任を持って説明する。」など強い文言で実施の徹底等を図ることが労使間で合意された経緯を考えれば、本件「確認書」及び「合意メモ」があるにもかかわらず、事前の振替休日の設定をせず、3か月以内に代休を取得させることもせず、その理由も説明せず、同一給与計算期間の精算も行わなかった会社の対応は、労使間で懸案事項となっていた振替休日等の管理の改善と実施の徹底を図った組合との合意を軽視するものであるといわざるを得ない。このような会社の対応は、組合との合意を軽視することにより、組合員や従業員の組合に対する信頼を損ない、組合を弱体化させるものであるから、組合の運営に対する支配介入に当たるといえる。

 

5 命令書交付の経過

 ⑴ 申立年月日     平成29年9月27

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和2年7月7日

 ⑶ 命令書交付日    令和2年8月19