【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(以下「組合」という。)は、被申立人Y1(以下「法人」という。)に雇用されている大学の教職員により組織された労働組合であるX2及び中高の教職員により組織されたX3の連合体であり、X2及びX3は申立人組合の支部と位置付けられている。

   被申立人法人は、Y2(以下「大学」という。)及びY3(以下、両者を併せて「中高」という。)を設置する学校法人である。

 

2 事件の概要

  平成27年7月23日、法人は、組合に対し、「新『大学教員人事制度』概要」及び「新『中高教員人事制度』概要」と題する資料を提示し、大学及び中高の新教員人事制度の導入を提案した。組合と法人とは、新教員人事制度の導入について、1224日から28年2月23日まで計4回団体交渉を行った後、28年3月17日、4月15日及び5月16日に団体交渉を行ったが、妥結に至らなかった。6月15日、法人は、組合に対し、「教員新人事制度導入手続の開始について」と題する通知書(以下「通知書」という。)を送付した上、8月1日に新教員人事制度を導入した。

本件は、28年3月17日、4月15日及び5月16日に行われた団体交渉における法人の対応が不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨

⑴ 法人は、組合が申し入れた新教員人事制度を議題とする団体交渉において、成績評価の基準を具体的に説明するなどして、誠実に応じなければならない。

⑵ 文書の交付及び掲示

  要旨:本件行為が不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 ⑶ 履行報告

 

4 判断の要旨

⑴ 新教員人事制度導入による不利益の程度に関する説明について    

法人は、新教員人事制度導入による不利益の程度は、飽くまで将来の昇給と賞与に対する期待値の低減にすぎないと主張しているが、成績評価の結果がC評価であった場合、定期昇給は停止し、また、賞与は大学教授が標準額のマイナス20パーセントとなるなど、大きな不利益が生じる可能性があるから、組合から新教員人事制度導入による不利益の程度を決定した理由について説明を求められた場合、法人は、その具体的根拠を説明する必要があると考えられる。

  しかし、第7回団体交渉において、組合が、大学教授がC評価を受けた場合、賞与への反映が標準額のマイナス20パーセントであることについて、「20パーセントでなくてはいけない理由って何ですか。」、「20パーセントにしなければ、Y2の経営が危なくなるってことを具体的な数字として示してください。」などと質問したところ、法人は、20パーセントが「一番合理的だと経営が判断した。」、「20パーセントでも良いじゃないですか。」などと回答するだけで、減額率を決定した具体的根拠を示していない。

⑵ 大学の降格制度導入の必要性に関する説明について

  第4回団体交渉までに、法人は、他の大学の事例について、具体的な大学名を複数明示した上、半数以上の大学が成績評価制度を導入しているなどと説明しており、成績評価制度を導入している他大学の事例については、一定の説明を行っている。

  しかし、第6回団体交渉において、組合が、降格制度は他大学に例がないことを指摘したところ、法人は、前例はなくてもやらなくてはならない、前例の有無は大きな問題にしていないため確認も行っていないなどと回答しており、降格制度を導入している他大学の事例については、提示していない。

また、第7回団体交渉において、組合が、法人に対し、降格制度を導入する理由について、改めて説明を求めたところ、法人は、非常に早く昇格してしまって暴走されては困る、非常に早く昇格する分だけ、その逆も有り得るというような制度設計にしている旨説明しているが、かかる説明は、非常に早く昇格した場合に教員が暴走するという不確実で抽象的な危険性を示すのみであり、降格制度導入の必要性について十分な説明を行ったとはいえない。

⑶ 組合の資料提示要求に対する対応について

第5回団体交渉において、組合は、法人に対し、25年8月に開催された経営戦略会議の会議録及び同会議で提示した資料の提示要求を行っているところ、同会議には、法人の理事長、学長、中高の校長等が参加し、新教員人事制度の基礎的な検討を開始しているのであるから、組合が提示要求を行った資料には、新教員人事制度の必要性、合理性等に関する重要な資料が含まれていると考えられる。 

また、組合は、法人において、成績評価を処遇に結び付ける仕組みがないため教育改革に積極的に取り組もうとする意欲が湧きにくいとの現状認識を得るに至ったことを示す会議録及び同会議で提示した資料の提示要求を行っており、組合の資料提示要求の範囲は、会社が主張するような過度かつ広範なものであったということはできない。

  それにもかかわらず、法人は、組合の上記要求に対して、経営上の機密に関するものが含まれるから提出しないと回答した後、理由を示すことなく、経営上の機密に関するものを除いても一切示さない旨回答しており、このような法人の対応は、合理的な理由なく、経営戦略会議の資料を一切提示しないとの姿勢を示すものである。

⑷ 中高教員の資格等級に関する説明について

第5回団体交渉において、組合は、中高の資格等級を3等級にする理由について質問したところ、法人は、三つのミッションに対応した3等級を設けた、また、大学が助教、准教授、教授の3等級であるから、同じ法人として同じ3等級とした旨回答しており、一応の理由を説明している。

加えて、組合は、法人の上記回答に対し、分かりましたと答え、それ以上の質問をするなどしていないことも考慮すれば、中高教員の資格等級に関する法人の説明が不十分であったとはいえない。

⑸ 成績評価の基準に関する説明について

  第7回団体交渉において、法人は、成績評価の基準について、「C評価は難しいですよ。C評価は決して簡単ではないと思いますよ。」などと発言しており、C評価を受けるのは例外的な場合である旨説明している。そして、28年度の中高の成績評価において、C評価となった者は、7名で全体の13.7パーセント、29年度は、4名で全体の7.4パーセントであり、少数とはいえないものの、法人が、成績評価は相対評価ではない旨説明していたことからすると、法人が、団体交渉において虚偽の説明やその場限りの根拠のない説明を行ったとまでは認められない。

しかし、成績評価は、最も重要な労働条件である賃金に直結するものであり、前記で判断したとおり、成績評価の賃金への反映による不利益の程度は大きいから、組合から成績評価の基準について説明を求められた場合、法人は、いかなる評価基準に基づき、成績評価を行うかを具体的に説明する必要がある。

法人は、「新『中高教員人事制度』概要」において、成績評価の対象として、「学級・学年指導」、「学習指導」、「校務運営」等の基本項目を示しているが、これらの記載は概括的なものにとどまるものである。

また、第7回団体交渉において、組合は、多数の者にC評価が付くのではないかとの懸念を示している。こうした組合の懸念は、第4回団体交渉までの間に、組合が、C評価の基準について再三にわたって説明を求めたのに対して、法人が、「先生方自身が決めた評価項目の大半の項目を著しく達成していない場合、初めてCになる」、「求められているものについて著しく認められない場合」、「よほどのことがない限りCにはならない」などと説明している経緯を踏まえると、法人が団体交渉の前に組合に提示した「新『大学教員人事制度』概要」及び「新『中高教員人事制度』概要」に記載されたC評価の基準である「教員ミッション著しく未達成」、「標準を下回る不十分な成果」に関する法人の説明がなお不明確であるとして、これを具体化して説明するよう求めたものと解される。

しかしながら、法人は、「C評価は難しいですよ。C評価は決して簡単ではないと思いますよ。」などと説明するにとどまった。これらの法人の説明は、なお抽象的かつ不明確であり、上記基準を具体化して説明する姿勢を欠くものといわざるを得ない。

⑹ 中高の初年度格付の基準に関する説明について

組合主張のとおり、法人は、団体交渉において、中高の初年度格付について、役職者以外であっても3級の資格を満たすと判定された者は、3級に格付されると説明していたが、実際の格付においては、役職者以外の者で3級に格付された者はいなかった。しかし、法人は、団体交渉において、役職者以外の者で3級に格付される者が必ずいるなどの説明を行ったわけではなく、3級の資格を満たすと判定された者がいなかっただけの可能性もあるから、役職者以外の者で3級に格付された者がいなかったという一事をもって、法人が、団体交渉において虚偽の説明やその場限りの根拠のない説明を行ったとは認められない。

しかし、初年度格付は、成績評価と同様、最も重要な労働条件である賃金に直結するものであり、制度移行時に55歳の中高教員が、2級に格付され、その後、各年度の成績評価が常にBで、昇格せずに定年を迎える場合、生涯賃金の減額は1,120560円であり、減額率は6パーセントとなるなど、不利益の程度も大きいから、組合から、初年度格付の基準について説明を求められた場合、法人は、いかなる基準に基づき、初年度格付を行うのかを具体的に説明する必要がある。

第5回団体交渉において、法人は、中高の初年度格付における「3級の資格を満たすと判定された者」に当たるか否かについて、3級の等級要件を踏まえて、移行時点での能力を総合的に判定して決定する旨説明した。これに対して、組合が、移行時点での能力を総合的に判定する際の要素が何かを質問したところ、法人は、過去の実績である旨回答した。加えて、組合が、3級の等級要件の一つである「指導的能力を発揮することができる」との要件を過去の実績に基づいてどのような基準で判定するのかと質問したところ、法人は、法人見解に書いてあること以上の説明はできない旨回答した。しかしながら、法人見解には、「新『中高教員人事制度』概要」に記載されたものと同様の3級の等級要件の記載があるのみであり、「指導的能力を発揮することができる」との要件の判定基準についての記載はない。

このような法人の説明は、法人が団体交渉の前に組合に提示した「新『中高教員人事制度』概要」に記載された以上のものは一切説明しないとの姿勢を示すものであり、中高の初年度格付の基準を具体化して説明する姿勢は見受けられない。

⑺ 組合の要求書に対する法人の対応について

  法人は、組合が第5回団体交渉において提示した要求書に対し、28年4月1日に回答書を送付した上、第6回団体交渉において、回答書の内容どおりの回答を行っており、C評価の賞与への反映に関する要求、大学教員の降格規定の削除の要求及び新制度導入の準備期間に関する要求について、やや抽象的な理由で拒否する回答がみられるものの、組合の各要求ごとに一定の理由を付して、諾否の回答をしている。

  また、法人は、新教員人事制度導入開始時期を当初の28年4月1日から8月1日に延期した上、新制度移行時に、基本給が2級の上限に格付された者を対象として、制度移行後5年間に限り、3級へ昇格する場合について、昇格時の基本給を新制度移行前の基本給とするとの移行措置や、中高における公平・公正な評価制度運用を図るため、校長への異議申立てに加えて、総務・人事部(人事課)に異議申立て窓口を新たに設けるなど、組合の要求に対し、譲歩の姿勢を示している。

したがって、組合の要求書に対する法人の対応がおよそ真摯な検討を行わず、合理的な理由を示さずに自らの提案に固執するようなものであったとまではいえない。

 ⑻ 組合の交渉態度について

  第1回団体交渉は、法人の提案から5か月経過してから開催されているが、新教員人事制度は、新たに成績評価制度を導入し、従来の資格等級制度、給与制度を大きく変更するものであるところ、組合が制度の内容を検討し、意見を形成するには相当の期間を要するものと考えられるから、組合が自身の懈怠により団体交渉を遅延させていたとはいえない。

  また、法人の提案から5か月経過して第1回団体交渉が開催されたことによって、団体交渉における法人の対応に何らかの支障が生じたような事情は見受けられない。

⑼ 結論

以上のとおり、団体交渉における法人の対応には、中高教員の資格等級を3等級にする理由について一応の説明をし、組合の要求に対し譲歩の姿勢をみせるなど、相応の対応をしているところもあるが、新教員人事制度導入による不利益の程度や降格制度導入の必要性、成績評価の基準や中高の初年度格付の基準などの説明において、具体的な根拠を示して十分な説明を行ったとはいえないから、28年3月17日、4月15日及び5月16日に行われた団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるというべきである。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成29年2月27

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和2年3月3日

 ⑶ 命令書交付日    令和2年4月15