【別紙】

 

1 当事者の概要

(1) 被申立人会社は、エネルギー事業、石油・天然ガス開発事業等を主たる事業とする株式会社である。

(2)  申立人X1は、申立外Z1(以下「Z1」といい、X1と併せて「組合」ということがある。)の下部組織たる労働組合であり、本件申立て時点における組合員数は5名である。

241231日、X1書記長であるX2は、再雇用期間満了により会社を退職した。これ以降、現に会社で就労するX1の組合員は存在しない。

(3) 申立外Z1は、昭和57年に結成された労働組合であり、X1を含め全国各地に下部組織を有している。組合と会社とは、団体交渉の議題につき適宜整理した上で、Z1と会社との間、あるいはX1と会社との間で、それぞれ団体交渉を実施してきた。

X1と会社との間の団体交渉は、X2が退職する直前の平成241220日に実施された団体交渉を最後に実施されていない。

 

2 事件の概要

X1は、会社において勤務していた元従業員5名により構成する労働組合で、Z1の下部組織である。組合と会社とは、長年にわたり対立状態にあり、労働委員会や裁判所において係争してきた。

X1と会社とは、昭和60年から平成2412月までの間、団体交渉を実施していた。しかし、2412月末日のX2の退職に伴い、会社で就労するX1の組合員が存在しなくなり、それ以降、会社は、X1との団体交渉を行っていない。

本件は、X2の退職以降における、X1による団体交渉申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文

本件申立てのうち、平成271212日以前に申し入れた団体交渉に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

 (1) 却下等に係る主張について

本件申立ては281212日にされたものであるから、申立ての1年前である271212日以前に行われた団体交渉の申入れに係る申立ては、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により却下を免れない。

(2) 会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて

ア X3及びX4の解雇撤回要求関係

() 一般に、裁判所あるいは労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許されないといえようが、本件の場合には、@本件団体交渉申入れ(本件申立てから1年前までにされた団体交渉申入れ)の時点では、X3及びX4の解雇からそれぞれ約40年又は約32年が経過していたこと、Aこの間、X3の解雇が不当労働行為に該当しない旨の判断が平成2410月の最高裁決定により確定したこと、BX4の解雇が有効である旨の判断が14年1月の最高裁決定により確定したこと、CX4の解雇が不当労働行為に該当しない旨の命令が大阪府労委においてされ、本件結審日現在その再審査手続が中労委において係属していることなどの事情が認められる。

() X1は、X3及びX4の解雇撤回を要求し続けていたところ、会社は、団体交渉等において、両名の解雇について裁判が確定あるいは係争中であり、中労委においても審査待ちの状態である旨、裁判所あるいは労働委員会で係属中の紛争についてはそれらの判決及び命令に委ねたい旨、今後の団体交渉についてはその都度適否を検討した上で対応する旨、要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求める旨などを回答したことが認められる。

() そうすると、既に上記の裁判所あるいは労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであり、その結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示したとしても、X1が裁判所あるいは労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性のある対応というべきである。

会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

イ X6の欠勤控除等撤回要求関係

() 一般に、裁判所あるいは労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許されないといえようが、本件の場合には、@X6の頸肩腕症候群の療養を理由とする欠勤に係る控除については、本件団体交渉申入れの約33年前に会社が決定したものであること、A労働委員会及び裁判所において不当労働行為該当性が争われたところ、29年の最高裁決定により該当しない旨の判決が確定したこと、BX6が会社に対し控除相当額の支払を求めて民事訴訟を提起したところ13年の最高裁決定により請求棄却の判決が確定したことなどの事情が認められる。

() X1は従前から会社に対し欠勤控除相当額のX6への支払を要求していたところ、会社は、団体交渉等において、X6の障害に係る労災保険法上の判断が最高裁で確定している旨、一時金支給額算定時の欠勤控除が正当であるとの法的判断が最高裁で確定している旨、裁判所あるいは労働委員会で係属中の紛争についてはそれらの判決及び命令に委ねたい旨、今後の団体交渉についてはその都度適否を検討した上で対応する旨、要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求める旨などを回答したことが認められる。

() そうすると、既に上記の裁判所あるいは労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであり、その結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示したとしても、X1が裁判所あるいは労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性のある対応というべきである。

会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

ウ 便宜供与要求関係

() 組合掲示板張り替えのためのセキュリティ・カード無条件貸与要求

組合掲示板設置場所への入退場及び便宜供与に係る交渉枠組みに関する両当事者間の折衝等の経緯を踏まえると、X1による組合掲示板張り替えのためのセキュリティ・カード無条件貸与要求は、Z1と会社との間において協議を行う事項として整理されたものであったということができる。

なお、本件において、組合掲示板張り替えのための組合員入室が妨害されたこと、あるいはセキュリティ・カードを組合員に無条件で貸与する必要性があったことを認めるに足りる具体的事実の疎明はない。

() 本社会議室の暫定使用要求

本社における会議室利用については、従前から、組合が会社に事前申請を行った上で利用していたところ、本件労使間においてはZ1と会社との間において協議を行う事項として整理されていたこと、会社は、X1による暫定使用要求について拒否を明確に回答し、その理由を団体交渉及び電話折衝において説明していることが認められる。

加えて、25年以降は組合に所属する会社従業員が一人もいなくなるという事情の変化を踏まえると、会社が、施設管理・機密保持という観点から会議室の利用を禁止してその旨をX1に伝達したことには、相応の合理的理由があると認められる。

() 小括

上記の事情を考慮すると、便宜供与要求については、本件団体交渉申入れの時点において、X1が会社と団体交渉を行っても進展が見込まれるような状況にあったとはいえず、改めて団体交渉を行っても問題を解決する余地が乏しかったといわざるを得ない。会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

エ X5及びX6の賃金差別是正要求関係

() 一般に、労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許されないといえようが、本件の場合には、@本件団体交渉申入れの時点では、組合が不当労働行為であると主張する平成7年あるいは12年の会社の不作為(X5及びX6を昇格させなかったこと)からそれぞれ約21年又は約16年が経過していたこと、AX5及びX6の昇格については二度にわたって不当労働行為に該当しない旨の命令が大阪府労委によってされていたことなどの事情が認められる。

() X1は従前から会社に対し賃金差別是正要求をしていたところ、会社は、団体交渉等において、人事制度については公正に運用している旨、大阪府労委において会社の正当性が認められ、再審査事件が中労委に係属中である旨、裁判所あるいは労働委員会で係属中の紛争についてはそれらの判決及び命令に委ねたい旨、今後の団体交渉についてはその都度適否を検討した上で対応する旨、要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求める旨などを回答したことが認められる。

() そうすると、既に労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであり、その結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示したとしても、X1が労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性のある対応というべきである。

会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

オ X6の再雇用要求関係

() 一般に、裁判所あるいは労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許されないといえようが、本件の場合には、@X6の再雇用拒否について当委員会が不当労働行為に該当しない旨の命令を発したこと、AX6が提起した地位確認等請求訴訟に係る請求棄却の判決が25年の最高裁決定により確定していたことなどの事情が認められる。

() X6の再雇用については、X1が同人の22年8月の定年退職の前から要求していたところ、会社は、団体交渉において、同人が再雇用基準を満たしていないため要求には応じられない旨、裁判所あるいは労働委員会で係属中の紛争についてはそれらの判決及び命令に委ねたい旨、今後の団体交渉についてはその都度適否を検討した上で対応する旨、要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求める旨などを回答したことが認められる。

() そうすると、既に上記の裁判所あるいは労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであり、その結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示したとしても、X1が裁判所あるいは労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性のある対応というべきである。

会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

カ その他要求関係

() X1は、@職場環境に関する情報開示要求、A他会社との経営統合に係る要求、B「マイナンバーの取扱いに係る申入れ」を団体交渉議題として掲げている。

しかしながら、これらの要求はいずれも現に会社において就労する従業員の労働条件又は職場環境に関わる要求であるところ、本件においては、2412月のX2書記長の退職に伴い、X1の組合員全員が会社を退職していたのであるから、これらの団体交渉の申入れ時点においては、現に会社で就労する組合員は存在しなかったことになる。そうすると、これらの議題は、会社とX1の組合員との雇用関係が継続していた当時からの労使間の紛争であり本件申立時においてもなお未解決のままとなっているものということはできず、これらの議題については、X1が労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しないといわざるを得ない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

() X1は、28年1月13日付「貴組合からの2015年末から2016年始までの各出状文書について」の件についても要求しているが、ここで摘示されている文書は前記アないしオ及びカ()における各議題に関する会社の回答にほかならないので、この点に関する判断は各議題に係る判断と同一である。

() X1は、28年3月9日付団体交渉要求書により、新たにX2書記長及びX6の一時金月率差別に関する損害賠償請求関係を団体交渉議題として掲げており、本議題において、本件一時金差異によってX2書記長及びX6が被った損害賠償を追加請求しているものと解される。

一般に、労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許されないといえようが、本件の場合には、@組合と会社とは18年度及び21年度の一時金支給について妥結していること、AZ1が21年度一時金の是正等を求めて当委員会に不当労働行為救済申立てを行い、当委員会がこれを棄却したこと、BZ1は再審査申立てを行い、本件結審日現在中労委に係属中であることなどといった事情が認められるにもかかわらず、X1は、組合が不当労働行為であると主張する一時金支給から9年余り又は約6年が経過した後に、卒然として損害賠償請求を行ったことが認められる。

これらの事情に加え、当委員会に顕著なX1を含む組合と会社との本件に至る前の労使間の紛争の経緯等に照らすと、本件においては、会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱くことは無理からぬものであると認められるところ、X1が、そうした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。

したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。

 

5 命令書交付の経過

 (1) 申立年月日     平成281212

 (2) 公益委員会議の合議  令和2年1月21

 (3) 命令書交付日     令和2年3月26