【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 被申立人会社は、肩書地である東京都品川区広町に本社を、同品川区八潮に事業所を有する株式会社である。会社は、本社では申立外Y2(以下「Y2」という。)所有の鉄道車両部品の修繕、清掃業務等を、八潮事業所では申立外Y3所有の車両及び建屋の清掃業務を主たる業としている。平成29年7月1日時点での従業員数は、会社全体では約130名、八潮事業所では16名である。

⑵ 申立人組合は、28年6月、Y2及び申立外Y3の子会社等に勤務する労働者により結成された労働組合であり、八潮支部を有している。本件申立時点での組合員数は17名、八潮事業所では約8名である。

 

2 事件の概要

   組合員X2及びX3は、労働契約更新時に、契約期間を6か月から3か月に短縮された。

⑵ 正社員であり八潮支部の支部長であるX4は、2911月8日頃、定年退職後の嘱託採用の発令なく、定年(65)に達する12月末日をもって雇用関係を終了する旨通告された。

⑶ 組合員X3は、291230日、退職願を会社へ提出したものの、30年1月19日、これを撤回すると会社に伝えたが、会社は当該撤回を認めなかった。

   ⑷ 本件は、@会社が、X2及びX3との労働契約について、契約期間を6か月から3か月に短縮したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、A会社が、X4を30年1月以降嘱託採用しないことは、組合の運営に対する支配介入又は東京都労働委員会への救済申立てを理由とする不利益取扱いに当たるか否か、B会社が、X3の291230日付退職願の撤回を認めないことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否かがそれぞれ争われた事案である。

 

3 主 文

本件申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 争点@について

ア 会社は、契約社員全11名のうち、定年までおおむね2年以上あるなどの一定の要件を満たす者については、X2及びX3だけでなく、非組合員を含む9名全員を労働契約期間短縮措置の対象とし、29年7月以降10月1日までに契約社員7名の契約期間を6か月から3か月に短縮しているのであるから、同措置は、組合員であるか否かにかかわらず、従業員に一律に適用されたというべきである。

イ 一般的には、労働契約期間の短縮は、従業員にとって雇用の不安定化を招くものであるところ、会社は、同措置対象者のうち、就労継続意思があり、業務遂行等に特段の問題がない者には、契約更新時に正社員登用を打診しており、X2及びX3もその打診を受け、希望したX3は正社員に登用されている。また、同措置導入後、契約期間満了のみを理由として雇止めをされた従業員はいないことからも、本件労働契約期間短縮措置の導入により、同措置対象従業員の雇用が不安定になった事実は認められず、同措置によって、組合員に具体的な不利益が生じたとはいえない。

ウ よって、会社が、X2及びX3との労働契約の期間を6か月から3か月に短縮したことが、不当労働行為に当たるということはできない。

 ⑵ 争点Aについて

ア 会社の社員就業規則第9条によると、会社は、業務の都合により必要と認めたときに定年退職者を嘱託として採用することができる旨が定められているところ、X4支部長の定年直近の5年間をみると、本社を含めた会社全体では、定年退職者36名中30名が嘱託採用されており、その割合は約83パーセントと相当高い割合であることが認められる。

しかしながら、本社と八潮事業所における業務の違いから、その定年後の嘱託採用の必要性にも違いがあること、八潮事業所においては、26年以降、定年退職後に嘱託採用された実績がないことからすると、嘱託採用希望者が全て雇用継続されてきたとまで認めることはできない。

  イ X4支部長は、29年5月8日頃に、副所長に対し、65歳定年退職後、会社を辞めるとの趣旨の発言をしている。会社においては、定年退職を迎える従業員に対し、再雇用の希望を確認する手続を一律には執っていない中で、副所長が本人から直接会社を辞めるとの趣旨の発言を聞いたのであるから、会社が、当該発言を受けて、補充要員として9月1日付けでY2から八潮事業所に補充要員を配属したことは、X4支部長の意向を踏まえた対応として無理からぬことであり、組合活動の中心人物を排除する意思によるものであったとまで認めることは困難である。

ウ さらに、X4支部長は、会社に対し、1124日付けで「継続雇用のお願い」を提出してはいるが、会社が、当該文書に対応して、1129日に同支部長と面談を行ったところ、同支部長は、「継続雇用のお願い」に記載された事情に係る説明や再雇用を希望する旨の明確な発言をしないなど、再雇用を希望する意思を明示しなかったのであるから、既に同支部長の補充要員を配属していた会社が、同支部長を再雇用しないという判断を維持したことも不自然とはいえない。

エ 加えて、本件労使関係全体をみても、会社は、X2及びX3に対し正社員登用を打診したり、所長が、退職を申し出たX3に対し、本人の退職意思を再三確認したりしており、会社が、組合を嫌悪していたと認めるに足りる事実の疎明もないことから、X4支部長の嘱託不採用は、組合の運営に対する支配介入に当たるとは認め難い。

オ また、上記の諸事情に加え、会社がX4支部長を嘱託採用しなかったことが、同支部長が当委員会の審問において証言することを妨げる意図でなされたことを示す事実も疎明されていないことから、X4支部長の嘱託不採用は、当委員会への救済申立てを理由とする不利益取扱いにも当たらない。

カ 以上のことから、会社が、X4支部長を30年1月以降嘱託採用しなかったことが、不当労働行為に当たるということはできない。

 ⑶ 争点Bについて

ア X3は、291223日、所長に対し、30年1月末日をもって退職したい旨を自ら申し出ており、X3が所長へ提出した1230日付退職願は、遅くとも1月9日までに本社へ送付され、総務部長及び代表取締役による決裁がなされた。会社は、X3が1月末日をもって依願退職することを受け、その後任者を遅くとも1月16日頃までには決定していた。

X3が、総務部長に対し、退職の意思表示の撤回を希望する旨を電話で伝えたのは、1月19日であり、社員就業規則第15条によれば、社員が退職を願い出て、会社が承認したとき、当該社員はその身分を失うのであって、撤回を認めるべき事由もないことから、会社が、1230日付退職願の撤回を認めなかったことに非があるということはできない。

イ さらに、会社は、上記アのとおり、X3の後任予定者を、遅くとも1月16日頃までには決定しており、X3の退職願を撤回すれば、X3の依願退職を前提として進めた人員計画に影響が出ることとなるから、会社には、1230日付退職願の撤回に応じられない相応の理由があったと認められる。

ウ 加えて、所長が、291230日、X3と面談を行い、本人の退職意思を再三確認しているほか、会社には、組合又は組合員であるX3を嫌悪していたとうかがえる事情は認められず、会社が、殊更に組合員を排除しようとしていたとはいえない。

エ 以上のことから、会社が、X3の1230日付退職願の撤回を認めないことが、不当労働行為に当たるということはできない。

 

5 命令交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成291011

 ⑵ 公益委員会議の合議 平成31年3月19

 ⑶ 命令交付日     令和元年5月15