【別紙】

 

1 当事者の概要

(1) 申立人組合は、主に東京西部地区で働く労働者により組織された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約50名である。

(2) 申立人X2は、会社と有期雇用契約を締結し、平成28年9月5日からパートタイマー(以下「スタッフ」という。)として〇〇〇〇〇〇〇議事堂レストラン(以下「議会レストラン」という。)で勤務したが、29年4月30日付けで雇止めとなった。X2は、申立外Z1(以下「Z1」という。)の組合員であったが、29年4月3日、組合に加入した。

(3) 被申立人会社は、肩書地に本社を置き、セルフ式うどん店「〇〇〇〇うどん」の運営等を業とする株式会社であり、13年に創業した。28年の店舗数は375店、正社員の従業員数は388名であり、正社員のほかに有期雇用契約のスタッフを多数雇用している。

(4) 被申立人Y2は、肩書地に本庁舎を置く地方公共団体である。Y2には、執行機関である知事と議決機関であるY2議会(以下「Y2議会」という。)とがあり、知事を補佐する内部部局として知事部局が、Y2議会を補佐する事務局として議会局がある。

 

2 事件の概要

  会社は、Y2の使用許可を受けて、議会レストランを運営している。

  Z1の組合員であったX2は、平成28年9月5日、会社と有期雇用契約を締結し、同日、議会レストランでの勤務を開始した。X2が、職場の同僚にビラを配布したり、署名への協力を求めたりしていたことに対し、会社は、注意を2回行ったことがあったが、29年3月30日、X2は職場でビラ配布を行った。

  4月3日、会社は、X2に対し、2回も注意をしたのにビラ配布を続けたなどとして、同月30日付けの雇止めを通告した。4月3日、X2は、組合に加入し、組合は、会社に対し、同人の雇止め撤回を議題とする団体交渉を申し入れた。

  4月30日、会社とX2との雇用契約は、終了した。

  5月8日の第1回団体交渉において、X2の雇用契約書の会社控では、雇用期間が29年4月末日までとなっているが、本人控では、2810月末日までとなっていることが発覚した。6月6日の第2回団体交渉において、会社は、X2の雇用期間は会社控の記載が正しく、本人控に誤記が生じたのはシステム上のエラーであるなどと説明した。

  6月21日、組合らは、本件不当労働行為救済申立てを行った。

  本件申立て後、組合と会社との間では、7月13日に第3回団体交渉、9月12日に第4回団体交渉、30年5月2日に第5回団体交渉が開催された。

  本件は、以下の(1)ないし(3)が争われた事案である。

 (1) 会社が、29年4月3日付けの通告により、X2を同月30日付けで雇止めとしたことは、同人が組合員であることや同人の組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たるか否か。

 (2) X2の雇止めに係る団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。

 (3) Y2は、X2の使用者に当たるか否か。使用者に当たる場合、Y2は、X2の29年4月30日付けの雇止めに関与したといえるか否か。関与した場合、Y2の行為は、X2が組合員であることや同人の組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たるか否か。

 

3 主文の要旨

 (1) 会社による文書の交付

   要旨:X2の雇止め理由に係る団体交渉における会社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 (2) 履行報告

 (3) Y2に係る申立ての却下

 (4) その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

 (1) X2の雇止めについて

  ア 本件雇止めの直接の原因となったのは、3月30日のX2のビラ配布であるということができる。

  イ 会社は、ビラの内容が問題なのではなく、従業員やスタッフが迷惑しており、会社が注意をしたにもかかわらず、従業員の嫌がるビラ配布等の行為をやめなかったことを問題視したと主張する。

    しかし、当該ビラには、「3・31怒りの都庁包囲デモ!」、「〇〇〇知事は出てこい!!」等の標語や〇〇〇知事の顔写真が記載されている。ビラ配布行為を問題とする以上、当該ビラの内容を検討しなかったとはおよそ考えられず、3月30日のビラ配布発覚後、直ちにX2の雇止めを決定した経緯も併せ考えれば、会社は、Y2や〇〇〇知事を批判する活動に従業員であるX2が関与していることを問題視し、そのことが、X2の雇止めの決定に影響したものとみざるを得ない。

  ウ X2は、4月3日、雇止め通知を受けた後で組合に加入しており、X2が組合員であることを組合が会社に通知したのは、同日付「団体交渉要求書」においてである。X2は、組合に加入する前はZ1の組合員であり、同人の署名活動やビラ配布等は、Z1の組合員としての活動であったと思われるが、Z1は、同人が組合員であることを会社に通知しておらず、本件雇止め決定時において、X2が組合員であることを会社が認識していたと認めるに足りる事実の疎明はない。

  エ 以上のとおり、X2が3月30日に配布したY2や〇〇〇知事を批判するビラの内容が、本件雇止めの決定に影響しているといえるものの、会社が、本件雇止め決定時において、同人が組合員であることや、同人の活動が組合活動ないし組合結成活動であることを認識していたとまで認めることはできない。したがって、本件雇止めが、X2が組合員であることや同人の組合活動を理由とした不利益取扱い、又は組合活動の抑制を図る支配介入に当たるということはできない。

 (2) 会社の団体交渉における対応について

  ア 雇用契約書の契約期間について

    システムの仕組みに係る会社の説明は、団体交渉の度に内容が若干変わっており、組合が誤解したり、混乱したりしたのも無理からぬことである。しかし、契約期間の終期について本人控に誤記が生じた原因は、システム上のエラーによるものであり、意図的に作出したものではないという点では一貫しており、説明が変遷したのは、会社の担当者がシステムを十分に理解してなかったことによるものと考えられるのであって、会社が意図的に虚偽やごまかしの説明をしたとまでは認められない。

    したがって、団体交渉における会社の説明が不誠実であったとまでいうことはできない。

  イ Y3店長の出席について

    会社は、Y3店長から聞き取り調査を行った上で、同店長の上司でX2の雇止めを決定したY4部長や、総務のY5MGが出席して団体交渉に対応しており、同店長が出席しないことによって団体交渉が停滞したような事情は特に認められない。Y3店長から聞き取り調査を行った上で団体交渉に臨んでいる会社が、同店長の団体交渉への出席を拒んだことが、不誠実な対応であるとまではいえない。

  ウ 退職届の提出要求について

    退職届の提出を指示したY5MGが、第1回団体交渉のやり取りの際に、会社本部は指示を出していない旨の会社側の発言を訂正しなかったことは、問題がないとはいえない対応である。しかし、Y5MGが、第1回団体交渉の場で直ちに自分が指示したことを説明せず、一旦持ち帰って事実関係等を確認した上で、次の第2回団体交渉において説明したことが、不誠実な対応であるとまではいえない。

  エ X2の雇止め理由について

    X2の雇止め理由については、前記⑴イで判断したとおり、29年3月30日にX2が配布したビラの内容が雇止めの決定に影響したものとみざるを得ないにもかかわらず、団体交渉における組合の質問に対し、Y4部長は、ビラの中身の問題ではなく、ビラの内容については審議していない、ビラの内容には興味がないので具体的な報告は聞いておらず、問題のポイントはそこではないなどと答え、飽くまでもビラの内容は雇止めの決定とは何の関係もないという説明を繰り返した。そうすると、会社は、雇止めの理由に関わる重要な部分について虚偽の発言を行っていたものとみざるを得ず、このような対応は、雇止めの撤回を議題とする団体交渉の核心部分への進展を妨げたものとして、不誠実であるといわざるを得ない。

  オ 以上のとおりであるから、X2の雇止め理由に係る団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当する。

 

 (3) Y2の使用者性等について

  ア Y2は、会社に対し、行政財産である議会レストランの建物の使用を許可する関係にあり、Y2と会社との協定書には、サービス形態をフルサービスとすることやY2議会関係者への配達依頼に応ずべきことなどが定められているが、これらは使用許可に当たっての条件にすぎない。これらの条件に対応するために、従業員の人員や雇用形態をどうするかは、会社が決定することであって、その会社の決定にY2が関与した事実は認められない。

  イ Y2と会社との協定書には、議会レストランでの販売品目及び価格について、会社がY2の承認を得なければならないとの規定があるが、Y2が会社の販売品目や価格を不承認とすることがあったとしても、Y2が会社のメニューや価格を決定しているとまではいえないし、仮に、Y2が、会社のメニューに何らかの影響力を有していたとしても、そのことから、Y2が会社の従業員の労働条件を支配、決定できる関係にあったとまでいうことはできない。

  ウ 以上のとおり、Y2が、会社の従業員の労働条件の決定に関与したり、影響力を及ぼしたということはできないのであるから、Y2は、X2との関係で労働組合法上の使用者に当たるとはいえず、Y2に対する申立ては、却下を免れない。

 

5 命令書交付の経過

 (1) 申立年月日     平成29年6月21

 (2) 公益委員会議の合議  令和元年7月16

 (3) 命令書交付日     令和元年9月19