【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、会社のタクシー乗務員の一部を構成員として、昭和46年に結成された会社内に組合事務所を置く労働組合であり、本件申立時の組合員数は80名である。

⑵ 被申立人会社は、32年に設立された旅客運送業(タクシー)を営む法人であり、平成5年に本社を肩書地に移転した。会社には、肩書地に隣接する市に営業所があり、本件申立時の従業員数は127名、うち、乗務員数は104名(本社65名、営業所39名)である。会社の現在の代表取締役は、17年に社長に就任した。

 

2 事件の概要

平成29年1月5日、組合と会社とは、27年下期及び28年上期の賞与の支払について、当委員会に係属していた前件申立てにおいて和解協定書を締結し、この協定書どおりに賞与が支払われたことから、同月30日、組合は前件申立てを取り下げた。

その後、会社は、組合に対し、2月8日及び3月17日付けの文書により、重要な秘密書類の保存場所として組合事務所のある場所を使用する必要に迫られたなどとして、5年(本社移転時)から貸与してきた組合事務所を4月10日までに明け渡し(以下「本件明渡し」という。)、防犯カメラのある乗務員の休憩室の一角(以下「本件代替施設」という。)に移動するよう通知した。また、3月24日付けの文書により、事務負担大・経費節減・事務効率化等諸事情によるなどとして、昭和51年から行ってきたチェックオフを中止すると通知した。会社の上記各通知に対し、組合は、従前どおり組合事務所の使用を求めると回答し、チェックオフも中止しないよう依頼したが、会社は、平成29年4月17日付けで本件明渡しを求めて東京地方裁判所立川支部に提訴(以下「明渡請求訴訟」という。)し、上記チェックオフの中止も実行した。

本件は、会社が本件明渡しを組合に求めたことが、支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <全部救済命令>

⑴ 会社は、組合に対し、組合事務所の明渡しを求めることなく、従前どおり貸与しなければならない。

⑵ 文書の交付及び掲示とその履行報告

要旨:会社が、組合に対し、組合事務所の明渡しを求めたことは、不当労働行為であると認定されたこと、今後繰り返さないよう留意すること。

 

4 判断の要旨

⑴ 本件明渡しを求める手続について

組合は、平成5年から約24年間にわたり、便宜供与として組合事務所を会社から無償貸与され、組合活動を行ってきているところ、会社は、重要な秘密書類の保存場所として組合事務所のある場所を使用する必要に迫られたなどとして、本件明渡しを求めている。しかし、その手続きは、29年の2月と3月に各1回文書で通知したのみであって、本件明渡しを求める理由を組合に説明する機会を設けていない。組合が、会社の求めに応じず、これまでどおり現状の組合事務所の使用を求めていたことからすると、このような会社の対応は、長年継続してきた便宜供与を廃止するに当たって、十分な手続を踏んでいたとはいえない。

また、会社は、本件明渡しと同様の明渡しを19年に組合に求めているが、この際、明渡しが実行されなかったにもかかわらず、会社は、29年2月まで同様の申入れはしていないのであるから、会社がかねてから度々組合事務所の明渡しを求めていたということもできない。

⑵ 本件明渡しを求める理由について

会社は、29年2月及び3月の文書において、本件明渡しを求める理由について、重要な秘密書類の保存場所として組合事務所のある場所を使用する必要に迫られたなどと通知している。しかし、重要な秘密書類7件のうち、マイナンバーが記載された書類については事務手続に必要な期間中の保管が必要であるとしても、従業員1名当たり1枚であるから、本件申立時の従業員数に鑑みれば、127枚にすぎず、従業員数の急増といった事情も認められない。また、その他の重要な秘密書類6件の保存期間は、うち3件(運行記録、乗務記録、点呼記録)が1年間、2件(事故記録、苦情処理記録)が3年間、1件(適性診断記録)が5年間であって、保存期間経過後は順次処分が可能である。そうすると、組合事務所の貸与開始から本件明渡しを求めるまでの約24年間、会社において、保存の必要な重要な秘密書類が年々増加し続けているといった事情はうかがえない。また、重要な秘密書類の一部(運行記録、乗務記録、点呼記録)は、書面による保存に代えて電磁的方法による保存を行うこともできたにもかかわらず、会社がこれらの保存方法を検討した様子もうかがえないことからも、組合事務所を書類の保存場所として使用する具体的な必要性が生じていたとまでは認められない。

一方、組合は、会社と多数の労使協定や労働協約を締結している過半数組合であり、現状の組合事務所を利用して、執行委員会、定期大会の準備、団体交渉議事録の作成、チェックオフリストの作成などの組合活動を行っている。このように、組合は、5年以降約24年間、継続して組合事務所を使用して、組合の運営及び維持のために、組合員らの個人情報を取り扱うなどしているのであるから、本件明渡しに応じた場合、その組合活動に生じる支障は大きいと認められる。

したがって、会社が組合事務所を使用する必要性は低い一方、組合が現状の組合事務所を使用する必要性は極めて高いといわざるを得ず、会社の組合に対する本件明渡しの要求に合理的理由があるとは認められない。

⑶ 本件代替施設について

会社は、適切な代替施設の提供を組合に提案していたと主張するが、本件代替施設は、乗務員なら皆利用可能な休憩室の一角であり間仕切りはされていない。しかも、納金機や両替機が置かれているため防犯カメラが設置されている。このようにオープンな空間である本件代替施設は、壁と扉で区切られた一室である現状の組合事務所と比べて、組合活動に対する配慮が十分であるとは到底認められない。したがって、本件代替施設の提供によって、従前の組合事務所貸与の必要性が大きく減殺されたということはできない。

⑷ 本件明渡しを求めた時期について

組合と会社との間では、賞与について、17年以降、一部の例外を除いて年内妥結、年内支給の状態が続いていたところ、27年下期の賞与は、組合が前件申立てを行った後の妥結となり、その支給は29年1月まで遅れた。そして、会社は、28年下期及び29年上期の賞与について妥結に至らなかった団体交渉の8日後に本件明渡しを求め、上記⑴のとおり、組合がこれに反対しているにもかかわらず、再度文書による通知をしたのみで明渡請求訴訟を提起し、その前に本件明渡しを求める理由を組合に説明する機会を設けなかった。さらに、会社は、この時期に、労使合意により昭和51年から約41年間行ってきたチェックオフの便宜供与を中止している。

⑸ 結論

以上のとおり、賞与の支給を巡って労使関係が良好とはいえず、組合が組合事務所を使用する必要性が極めて高い状況下において、会社が、長年にわたって貸与し続けてきた組合事務所について、本件明渡しを求める理由を説明して組合の納得を得るよう努力することなく、合理性のない理由で本件明渡しを求めたことは行き過ぎであって、組合運営に不便と打撃を与えるためになされたものといわざるを得ない。よって、会社が本件明渡しを組合に求めたことは、支配介入に当たる。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成29年6月1日

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和元年9月17

 ⑶ 命令書交付日    令和元年1120