【別紙】

 

1 当事者の概要

 申立人X1及び同X2(以下、X1とX2を併せて「申立人ら」という。)は、本件申立時において、被申立人Y2の社員であり、申立外Z2(以下「Z2」という。)の組合員である。

⑵ 被申立人Y1は、平成1710月に公布された郵政民営化法に基づき18年1月に設立された株式会社であり、主にY1グループ全体の経営戦略策定等の業務を行っている。27年9月30日現在の従業員数は3,062名である。

 被申立人Y2は、主に郵便事業を行う株式会社であり、Y1100%出資の株主である。本件申立時の資本金は4,000億円、27年9月30日現在の従業員数は200,516名である。

 

2 事件の概要

⑴ 16年4月1日、Z1(以下「Z1」という。)は、有期雇用である時給制契約社員に、習熟レベル等を評価し賃金に反映させるスキル評価制度を導入した。

⑵ 1710月に郵政民営化法等が公布され、18年1月には被申立人Y1が設立され、1910月1日にZ1は解散し、同日、その事業は、Y1を持株会社とするZ3、Z4、Z5及びZ6の四つの事業子会社に分割され(以下「民分化」という。)、Y1グループが発足した。その後、2410月1日、Z4は、Z3を吸収合併し、商号を被申立人Y2(以下「Y2」という。)に変更した。

⑶ 2810月1日、Y2は、時給制契約社員等を無期雇用に転換する無期転換制度等を導入した。時給制契約社員の契約期間は6か月以内であるところ、同日以降に採用された時給制契約社員(一部を除く。)は、通算契約期間が4年半を超えた日以後における最初の契約更新の際に、直近のスキル評価結果が、契約更新の要件の一つとなった。

⑷ 本件は、@Z1が、スキル評価制度を導入したことが、組合運営に対する支配介入に当たるか否か、AY2が、有期雇用である時給制契約社員を無期雇用に転換するに当たって、スキル評価制度の結果に基づきこれを運用していることが、組合運営に対する支配介入に当たるか否か、BY1が、労働組合法上の使用者に当たるか否か、使用者に当たる場合は、Y2が、有期雇用である時給制契約社員を無期雇用に転換するに当たりスキル評価制度の結果に基づきこれを運用していることが、Y1による組合運営に対する支配介入に当たるか否かが、それぞれ争われた事案である。

 

3 主文の要旨

 Y1及びY2の前身であるZ1が16年4月1日にスキル評価制度を導入したことに係る申立てを却下する。

⑵ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ Z1が、スキル評価制度を導入したことについて

Y1及びY2の前身であるZ1が、スキル評価制度を導入したのは、16年4月1日である。一方、本件は、29年4月3日に申し立てられ、本件申立ては同制度導入から1年以上経過しており、この制度導入が労働組合法第27条第2項にいう「継続する行為」とも認められない。

したがって、スキル評価制度の導入に係る申立ては、行為の日から1年を経過した事件に係るものであり、却下せざるを得ない。

⑵ Y2が、有期雇用である時給制契約社員を無期雇用に転換するに当たって、スキル評価の結果に基づきこれを運用していることについて  

ア 28年9月16日、Z2とY2との間で、「『人事に関する協約』の一部改正に関する協約」が締結された。Y2は、この協約に基づいて10月1日に就業規則を変更し、早期無期転換制度を含む無期転換制度等を導入するとともに、同日以降に採用された時給制契約社員(一部を除く。)について、通算契約期間が4年半を超えた日以後における最初の契約更新の際の契約更新の要件として、直近のスキル評価の結果がBランク以上であること等を定めた。

また、早期無期転換制度については、同制度が適用される要件として、直近のスキル評価の結果がAランクであること等が定められた。

イ この結果、2810月1日以降に採用された時給制契約社員は、勤続5年に達する前の契約更新において、直近のスキル評価がCランクの場合には契約が更新されず、無期転換の対象から外れる。

また、早期無期転換制度は、直近のスキル評価がAランクであることが要件の一つとなっているため、直近のスキル評価がBランク以下の場合には対象とならない。     

ウ しかし、これらの無期転換制度等は、申立人らの所属するZ2とY2との間の合意によって導入されたものであり、その制度が不合理であると認めるに足りる疎明はない。また、申立人らは、この合意はY2が強要したものであると主張するが、それを裏付ける具体的な疎明はない。さらに、契約更新要件や早期無期転換制度は、組合員であるか非組合員であるかに関わらず一律に導入されたものであり、また、スキル評価やその結果の反映において、Z2等特定の組合の組合員に対して、恣意的な運用がなされたとの疎明もない。

エ なお、スキル評価制度は、Z2の前身であるZ7とZ8とが、それぞれ、民分化前のZ1との間で合意して協定を締結し、さらに、Z3とZ2との協定に基づいて導入、運用されているものであるが、これら協定の締結を、Z1やZ3が強要したとの疎明もない。

オ 以上のとおりであるから、Y2が、勤続5年に達する前の契約更新や早期無期転換制度の適用に、スキル評価の結果を反映させていることは、労働組合の団結権を侵害する行為であるとは認められず、組合運営に対する支配介入には当たらない。

⑶ Y1が、労働組合法上の使用者に当たるか否かについて

ア 申立人らは、Y1がY2の従業員の労働組合法上の使用者に当たる理由として、Y1は、Y2の発足前からY2の労務政策を準備・企画していることを挙げている。

確かに、Y1は、民分化の実施に先立ち、民分化後の職員の労働条件について、各労働組合と交渉をした事実が認められる。

しかしながら、この交渉は、民分化により事業子会社に承継される労働者の労働条件の早期確定を図ることを目的とした郵政民営化法第171条の規定に基づくものであり、交渉当時はともかく、承継会社の設立後は、労使交渉の相手方としての立場は、承継会社に引き継がれている。

イ また、申立人らは、Y1がY2の従業員の労働組合法上の使用者に当たる理由として、Y2発足後は、Y2の100%出資の親会社であるY1の管理監督の下、Y2が無期転換制度等を導入していることを挙げている。

確かに、Y1は、Y2の100%出資の株主であり、事業子会社に対し、@グループ経営戦略の企画・立案・実施、Aグループ代表としての対外対応・調整・情報提供、Bグループ経営・各社経営に関する助言・情報提供等の役務を包括的に提供しているが、申立人らの業務遂行について指示をしたことはなく、民分化後に、Y2の従業員の労働条件等について団体交渉をしたり、無期転換制度等についてのY2とZ2との労働協約締結に当たり具体的に関与したり、Y2の従業員のその他の労働条件の決定に関与したと認めるに足りる事実の疎明もない。

したがって、Y1の上記関与が、部分的にもY2の従業員の基本的労働条件について、Y2と同程度に現実的かつ具体的な支配力を及ぼしていると評価することはできない。

以上のとおりであるから、Y1は、Y2の従業員である申立人らの労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。

ウ 上記のとおり、Y1は、Y2の従業員の労働組合法上の使用者に当たらないから、その余の争点については判断を要しない。

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日     平成29年4月3日

⑵ 公益委員会議の合議  令和元年8月27

⑶ 命令書交付日     令和元年10月2日