【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、首都圏の労働者及び労働組合で組織する労働組合であり、本件申立時の組合員数は約400名である。

⑵ 被申立人会社は、肩書地に本店を置き、クリーニング業を営む有限会社であり、正社員は28名、パート従業員は142名である。千葉県内に5つの工場がある。

 

2 事件の概要

⑴ 平成28年7月26日、申立人組合及び申立外分会は、被申立人会社に対し、分会結成を通知し、工場内の作業環境改善、組合会議のための就業時間外の施設利用及び組合掲示板の設置等を要求事項とする団体交渉の開催を求めた。

⑵ 8月10日に、岩瀬工場において、9月10日に、松戸工場において、12月5日に、馬橋工場において、組合員数が、従業員数の過半数を占めるに至った。 

⑶ 10月3日、会社は、組合に対し、岩瀬工場及び松戸工場の36協定締結を申し入れた。同月28日に団体交渉が開催され、36協定締結に向けての協議が行われ、組合は、36協定と便宜供与の件とを併せて合意することを提案したが、合意に至らなかった。翌29日、会社は、10月末で36協定が失効することに伴い、残業をさせることができなくなることから、各店長に、組合との協議が調わなかったため11月1日以降は通常どおりの当日納品ができなくなる旨を通知し、各店舗に、中二日渡し(顧客から預かった品物を中二日後の納品とすること。)を行う旨の通知をした。そして、11月1日以降、組合との間で、岩瀬工場と松戸工場の36協定は締結されず、会社から、便宜供与の条件が提示されることも、便宜供与がされることもなかった。   

⑷ 12月、冬期一時金が支給されたが、分会長X2及び組合員X3を含む組合員全員が減額された。

29年7月、夏期一時金が支給された。組合員は、X3を除き全員が減額された。また、分会長X2及びX3が勤務する岩瀬工場及び松戸工場は0.7か月分をベースとして支給されたが、他の工場は1か月分をベースとして支給された。

  12月、冬期一時金が支給されたが、組合員は、全員減額された。

⑸ 29年6月7日及び7月5日、事務員のY2は、馬橋工場のパート従業員と「じゃ辞めてみますか?」等の話をした。

6月25日、退職した匿名のパート従業員から、いじめを受けたのが退職した理由であるとの電話があったとして、マネージャーらが馬橋工場を訪問し説明会を開催し、パート従業員らから意見等を聴取した。

7月16日及び23日、会社は、パート従業員らに個人面談を行った。
⑹ 30年1月には、一時は45名いた組合員は、X2とX3の2名のみとなった。

⑺ 本件は、@会社が、組合に対し、松戸工場、岩瀬工場及び馬橋工場の組合掲示板貸与及び休憩室の就業時間外の利用を認めないことが、組合活動に対する支配介入に当たるか否か、A28年度冬期一時金、29年度夏期一時金及び29年度冬期一時金について、分会長X2及びX3に減額支給したことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合活動への支配介入に当たるか否か、B㋐29年6月25日の馬橋工場のパート従業員に対するY3マネージャーの発言、㋑29年7月16日及び同月23日の馬橋工場のパート従業員との面談でのY3マネージャー及びY4マネージャーの発言、㋒29年6月7日及び7月5日の馬橋工場のパート従業員に対するY2の発言が、組合脱退を勧奨する等の支配介入に当たるか否か、が争われた事案である。

 

 

3 主 文 <一部救済命令>

 ⑴ 会社は、組合員X2に対し、平成28年度冬期一時金、29年度夏期一時金及び29年度冬期一時金について、マイナス査定をなかったものとし、かつ、29年度夏期一時金についての支給額のベースが1か月であったものとして取り扱い、既に支払った額との差額を支払わなければならない。

 ⑵ 会社は、組合員X3に対し、28年度冬期一時金及び29年度冬期一時金について、マイナス査定がなかったものとし、かつ、29年度夏期一時金についての支給額のベースが1か月であったものとして取り扱い、既に支払った額との差額を支払わなければならない。

⑶ 会社は、組合を誹謗中傷し、同組合の組合員に対し、同組合からの脱退を勧奨する等の言動をして、組合の運営に支配介入してはならない。

⑷ 文書の交付及び掲示

 要旨:会社が、組合員X2及び同X3に対し、28年度冬期一時金、29年度夏期一時金及び29年度冬期一時金について減額支給をしたこと、組合からの脱退を勧奨する等の言動をしたことが、不当労働行為であると認定されたこと、今後繰り返さないように留意すること。

 ⑸ ⑴、⑵及び⑷の履行報告

 ⑹ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

  組合掲示板貸与及び休憩室の就業時間外の利用を認めないことについて

ア 掲示板の貸与等の便宜供与は、労使合意に基づいて行われるものであり、使用者に便宜供与を行う義務があるわけではない。本件では、281028日の団体交渉で、便宜供与に関する具体的な条件を会社が提出すると述べてはいたものの、その後の団体交渉も含め、便宜供与をするという合意には至っていない。

イ 1028日の団体交渉までの便宜供与を巡る状況は、組合がその必要性を主張し、会社に便宜供与ができない理由を明らかにするよう求めたのに対し、会社は、便宜供与を認められないことについて理由を付して説明したというものである。会社が同日の交渉において、便宜供与を実施する条件について検討する旨を述べていることも踏まえると、この段階における便宜供与を認めない旨の会社の対応は、労使双方が便宜供与に関する基本的な考え方を述べ合う段階における会社の基本的な考え方を示したものとみるべきものである。

ウ また会社は、1028日の団体交渉において便宜供与についての具体的条件を提示するという姿勢を示しながら、その直後に組合の便宜供与と36協定とを結びつけた要求を拒否して、中二日渡しを実施するという対策を執っている。

組合は、この時期、会社が休憩時間を一斉に与えていない等の労働基準法違反をしていることからすれば、中二日渡しにした理由は、36協定を締結せずに残業をさせるという違法なことができないからではなく、組合の施設利用を一切拒否するためにこのような極端な対応を執ったものであると主張する。しかし、仮にこの時点において休憩時間の一斉付与について組合が指摘するような労働基準法違反の状態があったといえるとしても、36協定の失効に伴い中二日渡しを実施し、時間外労働についての労働基準法違反を生じさせない対応を執ること自体は非難されるべきものではない。また、会社が、11月以降、組合との関係においても、労働基準法違反となる36協定のない状態で従業員に残業をさせる事態を避けなければならないと判断したことには相応の理由があり、この点に非があったということはできない。

  会社は、組合の要求に対する態度を大きく変えていることについては、交渉相手である組合にその旨を説明することが望ましかったといえる。また、会社が即日仕上げというセールスポイントをあえて手放したことには不自然さが窺われる面がないわけではない。

しかし、組合も36協定期限の直前になって、団体交渉の場において初めて36協定と便宜供与を結び付ける意向を示しており、会社は、団体交渉の場において便宜供与の条件を検討する旨の発言をする一方で、持ち帰って社長の意向を確認する必要があるとも述べていることからすれば、持ち帰り検討した結果、36協定締結と引き換えに組合に便宜供与を認める対応をすることは拒否して、便宜供与については36協定と切り離して協議するという判断をし、36協定の締結を断念し中二日渡しを選択するに至ったというべきである。会社がこのような方針転換をしたこと自体には相応の根拠があるというべきであり、このことをもって非難されるべき不相当な対応であるとはいえない。

オ 以上のことに照らすと、会社が、組合掲示板貸与及び休憩室の就業時間外の利用という便宜供与を実施することについて組合との合意に至らず、便宜供与を認めていないことが、便宜供与は労使合意に基づいて行われるものであることを踏まえた相当な対応といえる範囲を逸脱して組合を弱体化させる行為に当たるとまでいうことはできず、会社が便宜供与をしなかったことが、不当労働行為に当たるとまでいうことはできない。

⑵ 28年度冬期一時金、29年度夏期一時金及び29年度冬期一時金について

ア 一時金の査定の状況をみてみると、組合結成前の全従業員については50%前後の者が減額されていた。組合結成後は、非組合員も減額された者はいるがその比率は40%前後であったところ、組合員は29年度夏期一時金のX3を除いて全員が減額されている。

X2及びX3は、組合結成前にも減額査定をされたことはあるが、組合結成後は、大幅な減額査定をされている。

組合結成前後で、査定に大きな変化が生じており、組合の結成が査定に影響したことが強く疑われる。

会社は、一時金の減額理由は事実に基づいたものであると主張するが、減額理由の説明が一貫していないこと等からすれば、会社の主張する減額査定の根拠となる事実があったか、あるいは、仮に会社の主張に沿う事実があったとしても、それが客観的にみて減額査定の合理的根拠になるといえるかは疑わしいといわざるを得ない。

イ 松戸工場と岩瀬工場の支給ベースを引き下げたことについて、会社は、社員一人当たりの売上高を理由に非組合員も含めて一律にベースを下げており、組合員に対する不利益取扱いではないと主張するが、会社は、これまで、工場間の差を設けたことがないにもかかわらず、29年度夏期一時金について、正社員の全組合員6名中5名が所属する松戸工場と岩瀬工場だけベースを下げている。

  組合結成後に、組合員ほぼ全員が減額査定を受けていることを併せ考えれば、松戸工場と岩瀬工場の支給ベースの引下げも、それが工場単位の措置であることを踏まえてもなお、組合員を狙い撃ちにした対応であることが強く疑われる。

ウ 組合結成後に組合員が大幅な減額査定を受けており、組合結成が査定に影響したことが強く疑われること、減額査定についての合理的な根拠が示されているとはいい難いこと、松戸工場と岩瀬工場の支給ベース引下げも組合員を狙い撃ちにした対応であると強く疑われることと、当時の対立的な労使関係とを考慮すれば、会社が、X2及びX3について低い査定を行い、また、当時、組合員の8割以上が所属していた工場のベースを低くしたのは、28年7月に分会が結成されて以降、急激に組織拡大し、36協定の締結等にも影響力を持った組合の力を減殺するために行ったものとみざるを得ず、組合員に対する不利益取扱いに当たるとともに、それを通じて組合の活動を萎縮させる支配介入にも当たる。

⑶ 29年6月25日のY3マネージャーの発言、同年7月16日及び同月23日のY3マネージャー及びY4マネージャーの発言、並びに同年6月7日及び7月5日のY2の発言について

ア 29年6月25日に、Y3マネージャーは、馬橋工場に赴き、匿名電話の内容を記録した文書を読み上げているが、匿名電話に関する従業員への個別聞き取り等による事実確認が一般的と考えられるところ、会社はそのような事実確認を行っておらず、極めて不自然な対応であるといわざるを得ない。

そして、読み上げた文書は、組合のいじめにより退職を余儀なくされた旨が主な内容なのであるから、このような文書の読み上げは、従業員に対し、読み上げた内容を確認された事実であるかのように印象付けるものである。このような発言は、組合ないし組合員を不当に非難し、従業員に対して組合に悪印象を抱くよう誘導する行為であり、組合の弱体化を企図した組合に対する支配介入であるといわざるを得ない。

  7月16日の面談におけるY4マネージャーの「X2さんについて行って、10年来の私たちを信じない。」との発言等、Y4マネージャーやY3マネージャーの発言は、組合員に対し、組合加入を快く思っていないことの表明といえ、組合員らが組合員で在り続けることをけん制し、これを妨害する意図の下になされたものといわざるを得ず、組合に対する否定的な言動をすることで組合活動を萎縮させる効果を狙った、組合の組織運営に対する支配介入である。

なお、7月23日の面談については、具体的な発言の疎明はないことから、同日の会社の発言については、支配介入に当たるということはできない。

ウ 6月7日及び7月5日のY2の発言は、組合加入について動揺をもたらし、脱退を勧奨しているとも受け取られる発言であり、⒜業務として工場を巡回している際に行われているものであること、⒝会社の見解を尋ねられた際に個人の考えであると断ることなく会社の立場で答えており、また、自分が組合に対する会社側の窓口となりたい旨の発言もしているなど、会社の立場からなされたとみられる内容を含んでいるものであること、⒞上記ア、イのマネージャーらによる支配介入発言と同時期に行われていること等から、会社の意を受けて行われたものと推認せざるを得ず、組合の運営に対する支配介入に当たる。

 

5 命令書交付の経過 

(1) 申立年月日     平成281219

 (2) 公益委員会議の合議  令和元年9月17

 (3) 命令書交付日     令和元年11月6日