【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ア 申立人X1(以下「X1」という。)は、各都道府県に都道府県連合会を置く労働組合であり、本件申立時の組合員数は、約103,000名である。

イ 申立人X2(以下「組合」という。)は、申立外Y2株式会社(以下「Y2」という。)の従業員らによって昭和20年代に組織された労働組合で、本件申立時の組合員数は、約300名である。組合は、X1の地方組織であるX3に加盟している。

⑵ 被申立人会社は、Y2の子会社であり、福島県須賀川市に本社を置き、貨物自動車運送事業等を営む株式会社である。本件申立時の従業員数は、709名である。会社には、申立人組合のほかに、会社とユニオン・ショップ協定を締結している別組合が存在する。

 

2 事件の概要

Xは、平成元年7月、Y2に採用され、宇都宮支店で勤務した。その後、Xは、組合に加入した。

21年3月以降、Xは、配車業務に従事してきた。

26年10月、宇都宮支店は、Y2の組織再編に伴い、被申立人会社の支店となり、Xら宇都宮支店の従業員は会社に転籍となった。宇都宮支店で勤務する組合員らは、申立外X4(以下「X4」という。)を結成し、Xが執行委員長に就任した。以降、X4と組合とは、結束して組合活動を行い、Y2からの給与天引協定締結の要求や、三六協定における時間外労働時間の上限を延長したいとする申入れには、反対し続けた。

28年5月、X4は、組合と統合し、名称をX2として、Xは書記長に就任した。

9月1日、会社は、Xに対し、Y2への出向及び小山市にある同社Y3事業所(以下「Y3事業所」という。)勤務を命じた。

本件は、会社が、Xに対し、本件出向を命じたことが、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文

本件申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 本件出向に至るまでの労使関係

X4の結成当時、会社は、第2組合ができることを好ましくないと述べたり、Xに対し解雇を示唆するなど、会社がX4を敵視するかのような言動が認められる。そして、Y2の親会社の社長らは、組合が上部組合に加盟していることを問題視するような発言をしており、これらの言動は、会社が組合を嫌悪していると推認させる。

また、Y2からの給与天引協定締結の要求や、三六協定における時間外労働時間の上限を延長する申入れに組合は反対し続けており、会社との間で、意見の対立がみられる。

したがって、本件出向が、組合を嫌悪する会社の不当労働行為意思の下に行われたと推認させる事情があったといえる。

⑵ 業務上の必要性

ア 本件出向前のY3事業所の配車担当者は、配車業務の経験がなかったことから、所長が配車業務を行っており、所長に相当の負担がかかっており、所長が不在の時などは庸車会社に配車を頼らざるを得ず、庸車会社との間で問題が発生していたことが窺える。こうしたことから、Y3事業所が、配車業務の経験が長く、庸車会社との交渉力にも長けたXを必要としたことはあながち不自然なこととはいえない。そして、本件出向後は、所長は、Xと分担して配車業務を行うことが可能となり、所長が不在の時でも、配車業務をY3事業所で行うことができるようになった。また、課題であった庸車会社の拡大についても、庸車会社を複数知っているXが赴任したことにより、3社増やすことができた。

 一方、宇都宮支店は、支店長のほかには嘱託の管理職が1名しかおらず、管理職の不足といった課題があり、また、茨城県で勤務する課長から家庭の事情により宇都宮支店への異動希望が出されていた。

したがって、本件出向により、Y3事業所及び宇都宮支店における人事上及び業務上の課題を一挙に解消することができたのであるから、本件出向には業務上の必要性があったといえる。

イ また、配車業務は、配車担当者が法人客や庸車会社と価格を交渉して決定するなど、配車担当者に裁量があり、顧客との癒着等による恣意的な判断を防ぐなど、不正防止の対応が必要な業務である。Xは、本件出向時まで7年半にわたり宇都宮支店で配車業務に従事しており、本件出向には、不正防止といった観点からも、業務上の必要性があったといえる。

⑶ 人事上・経済上の不利益性

ア 本件出向前、Xは、宇都宮支店において、法人客からの依頼に応じてトラックの車種を判断し、庸車会社と交渉し、法人客との価格交渉も行っていた。配送先も全国各地で、荷物も多様で、その都度、高度な判断が求められた。

本件出向先のY3事業所は、スーパーマーケットの各店舗に商品を配送する業務を担当しており、配送先、配送ルート、価格等は事実上固定されており、業務を遂行するに当たり配車担当者の裁量の余地は少ない。また、配送業務に関わる時間も極めて短時間であることから、この点を捉えれば、組合らが業務に「雲泥の差」があると主張することも理解できなくもない。

イ しかしながら、Y3事業所の配車業務は、受注から配送指示までの時間的余裕がなく、また、季節や時期により受注量の変動があることからすれば、全くのルーティンワークであるとはいえない。実際、Xの前任者は、配車業務の経験がなかったために、業務上の問題が生じていたのであり、こうしたことからすると、これまでの経験を生かすことのできる業務であるといえる。

ウ また、Y3事業所の月当たりの売上げは、グループ内の営業所の中でも上位に位置し、大口の顧客を相手にする業務であることからすれば、会社にとっては重要な業務であったのであり、裁量の余地が少ない業務とはいえ、組合らが主張するような「左遷人事」であるとまではいえない。

エ Xは、本件出向後も経験を生かせる配車業務に従事しており、会社の出向規程によれば、賃金、賞与、退職金等において会社従業員と差別することはないとされており、本件出向がXに明らかな不利益を与えたとまではいえない。

⑷ 組合活動上の不利益性

ア 本件出向後、Xは、組合員との相談をメールを介して行い、勤務時間の前後又は休日に宇都宮支店に赴いて、組合員の相談に応じ、組合への勧誘などの組合活動を行っており、従前の組合活動を維持するために、Xに以前よりも負担がかかっていることが認められる。

Xの組合活動をみれば、Xは組合員からの信望が厚く、組合の真のリーダーであると組合らが主張することは理解することができ、本件出向は、組合活動に対し少なからず影響を与えたことは否定できない。

イ しかし、本件出向により、Xの組合活動の機会が失われたわけではなく、本件出向の前後を通じ、団体交渉に出席するなど、組合活動自体は行われているのであるから、組合活動に大きな支障を来すほどの不利益が生じたとまではいえない。

⑸ 結論

本件出向に至るまでの労使関係をみると、会社が組合を嫌悪していたことを推認させる事情が認められるものの、本件出向には、業務上の必要性があり、現に一定の成果も上がっていることに加え、本件出向により、Xに人事上・経済上の明らかな不利益があったとはいえず、組合活動に大きな支障を来すほどの不利益が生じたともいえない。

したがって、本件出向が組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

 

5 命令交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成281014

 ⑵ 公益委員会議の合議 平成31年2月5日

 ⑶ 命令交付日     平成31年3月4日