【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1は、申立外X6の都道府県地方連合会であるX7に加盟する労働組合である。

   申立人X2(以下「組合」)は、X1を上部団体として結成された、会社の従業員らで組織する労働組合である。本件申立時には、少なくとも10名以上の組合員がいた。

⑶ 被申立人会社は、兵庫県神戸市に本社を置き、女性用下着等の販売及び卸売を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は約300名である。なお、会社の商品は、販売代理店などが消費者に販売しており、会社は専ら、代理店への商品卸売や販売支援などを行っている。

 

2 事件の概要

  28年5月31日、団体交渉が行われた。組合が、ハワイセミナー(会社が販売代理店の店主を招いて開催した報奨旅行)におけるY2営業本部長の代理店主への言動(以下「本件行為」という。)がセクハラ行為であるとして、会社に協議を求めると、会社は義務的団交事項ではないとして応じなかった。

  6月21日、組合は、本件行為の内容等をウェブサイトに掲載し、6月29日には、個人株主でもあるX3委員長が、会社の株主総会の質疑応答の場にて、本件行為について会社に質問した。8月5日、会社は、上記の行為が会社らの名誉を棄損したとして、組合らに対して訴訟を提起した。

  9月1日、会社は、X3委員長に対して、東京支店から本社(神戸市)お客様相談課への10月1日付配転を命じた。

  10月1日、会社は、X3委員長に対して、パワハラ行為や会社のパソコンを業務外使用したこと等を理由として、管理職相当職から一般職へ降格させる懲戒処分を行った。

  29年2月10日、会社は、X4組合員に対して、東京支店から名古屋支店への4月1日付配転を内示した。

 4月3日。会社は、X5書記長に対して、会社のパソコンを業務外使用したことなどを理由として、減給処分を行った。

 本件は、以下の事項が争われた事案である。

⑴ 28年5月31日の団体交渉において、会社が、本件行為は義務的団交事項には当たらないとして協議に応じなかったことは、不誠実な団体交渉に当たるか否か。(争点1)

⑵ 会社が、X3委員長に対し、2810月1日付けで降格処分としたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点2)

⑶ 会社が、X3委員長に対し、2810月1日付けで東京支店から本社お客様相談課への配転を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点3)

⑷ 会社が、組合及びX3委員長を被告として、本件名誉毀損訴訟を提起したことは、組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点4)

⑸ 会社が、X4組合員に対し、29年4月1日付けで東京支店から名古屋支店への配転を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点5)

⑹ 会社が、X5書記長に対し、29年4月3日付けで減給処分としたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか否か(争点6)

3 主 文(要旨)

 ⑴ 会社は、組合が、ハワイセミナーにおける営業本部長の行為について団体交渉を申し入れたときは、義務的団体交渉事項には当たらないとして拒否してはならず、誠実に応じなければならない。

 ⑵ 会社は、X3委員長に対して行った降格処分をなかったものとして取り扱い、同処分がなければ支払われるべきであった賃金相当額と、既支払賃金額との差額を支払わなければならない。

 ⑶ 会社は、X3委員長に対して行った配転命令をなかったものとして取り扱い、東京支店の原職又は原職相当職に復帰させなければならない。

 ⑷ 文書交付(不当労働行為であると認定されたこと。今後繰り返さないように留意すること。)

 ⑸ ⑵⑶⑷の履行報告

 ⑹ その余の申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

  争点1:28年5月31日の団体交渉について

  Y2本部長は、セクハラ防止を含めた適切な接遇を従業員に指導すべき立場であるから、仮に、同本部長自らがセクハラ行為を行い、それに対して会社が適切な対処をしなければ、社内規律が損なわれたり、適切なセクハラ防止体制が維持できなくなるなど、従業員の就業環境が劣化することとなる。よって、Y2本部長の行為に対する会社の対処の内容は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であり、義務的団交事項に当たる。

  団体交渉において会社は、組合に対して、Y2営業本部長の行為は会社のコンプライアンス委員会にてセクハラに該当しないと判断された旨を回答するのみで、それ以上の説明等は何ら行わなかったのであるから、28年5月31日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当する。

⑵争点2:X3委員長に対する降格処分について

  会社は、殊更詳細にX3委員長の行為を調査していたことが窺われ、また、会社は、コンプライアンス委員会の答申を受けて、X3委員長の懲戒処分を決定する際に、同委員会から指摘されていない事項を加えているなど、その決定過程等において不自然な点が認められる。

  また、本件降格処分は、処分量定が行為内容と均衡のとれたものといえるかについては疑問であり、当時、X3委員長が行った組合活動によって緊迫した労使対立が生じていたことも併せ考えると、会社は、反組合的意図をもって過重な処分を科したものとみるほかない。

  よって、本件降格処分は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たる。

⑶争点3:X3委員長に対する本社お客様相談課への配転について

  X3委員長の配転先であるお客様相談課は、業務量の増加が見込まれていたとはいえず、また、X3委員長は、職場での言動が問題視されて懲戒手続が進められ、上司等からの評価も高くはなかったことから、お客様相談課を増員する必要性と同委員長を同課へ配置する合理性は乏しい。

  そして、降格処分(争点2)と本件配転が同時期に行われたことや、当時の緊迫した労使関係などを併せ考えると、本件配転は、組合の中心人物であるX3委員長を活動拠点から遠方に放逐し、組合の活動力を削ぐことを意図したものとみるほかない。

  よって、X3委員長に対する本件配転命令は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たる。

⑷争点4:名誉毀損訴訟の提起について

  一般に、自らの権利利益の回復を目的として、訴訟制度を用いて解決を図ること自体は、正当な権利行使の方法である。そして、会社らからすれば、組合が行ったウェブページへの掲載内容等は、会社らの社会的信用を損なうものとして、看過できないものであったとみるのが相当である。

  会社は、それに対して、生じた損害の賠償を回復すべく訴訟提起したのであるから、訴訟制度を悪用して組合活動を不当に妨害したとみることはできない。

  よって、本件名誉毀損訴訟の提起は、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑸争点5:X4組合員に対する名古屋支店への配転について

  X4組合員は、解消が進められた長期滞留者(同一部署に5年以上在籍する者)であり、同時期にX4組合員以外の長期滞留者も配転されている。また、苦情が寄せられたX4組合員の行為は不適切な行為であり、会社が、同人を代理店主と接する機会の少ない内勤へ配置したことには、相応の合理性がある。

  よって、本件配転は、X4組合員の活動に対する報復として、会社が同人の養育を困難にさせるために行ったなどとみることはできず、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑹争点6:X5書記長に対する減給処分について

  X5書記長は、業務時間中に、会社のパソコンに競馬の倍率表等を表示させながら馬券を購入するなど、明らかに業務外の行為を行っており、それらは、懲戒処分の対象となり得る職務懈怠行為である。本件減給処分は、同一の懲戒事由により処分された他の従業員と比べてとりわけ重いとはいえず、懲戒手続上の不備も認められない。

  よって、X5書記長に対する減給処分は、反組合的意図に基づいて行われたとはいえず、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成28年6月20日(2849号事件)

             平成2811月9日(2876号事件)

             平成281219日(2892号事件)

 ⑵ 公益委員会議の合議 平成31年2月19

 ⑶ 命令書交付日    平成31年3月26